第25話 模擬戦班作り
俺と萩原がドスケベの烙印を押され、学校内の全女子生徒に嫌われてから一週間が経過した。
四月も後半に差し掛かった今、五月上旬に予定されている
男女四人で班を作るのだが、全女子から嫌われている俺と萩原は当然ハブられていた。俺としては任務に支障が無ければそれでいいので特に問題ない。
ただ、あれから藻香は俺との接触を最小限にしていた。彼女の声を最後に聞いたのはいつだっただろうか。彼女から相当嫌われたらしい。
それでも、この模擬戦において護衛対象である彼女と違う班になるのだけは避けなければならない。
それ故俺が取った行動は無謀とも言えるものだった。
「藻香、俺と同じ班になってくれ」
「――ヤダ」
「なんで?」
「常にエッチな事を考えているスケベと一晩行動を共にするなんてありえないでしょ?」
「男なんて皆スケベなケダモノだ。俺と萩原に限ったことじゃない。他の皆も同じだ。――そうだろう?」
俺が同じクラスの男たちに問うと「お前と一緒にすんな、ボケ!」と返された。こいつら、俺と萩原の巻き添えを食いたくないから裏切りやがった。
あの一件から俺たちは女子から嫌われたが、男子たちからはリスペクトされていたのだ。
しかし、女子と班を組むというイベントを前にして、彼女たちから好感度が下がるのを危惧したこいつらは、平気で手のひらを返した。
何て世知辛い世の中なんだ。
こうしている間にも周囲では順調に班が出来上がっていく。藻香は松雪と一緒のようだが、どの男と組むのかはまだ決まっていない。
とりあえず俺は教室の隅っこで小さくなっている萩原の所へ戻って来た。
「ごめん、駄目だった」
「俺……今日ほどお前をスゲーと思った事はないよ。何を思って玉白と班を組もうと思ったんだ? 今の俺たちの状況を作り出した張本人だぞ! お前バカなの? 死ぬの!?」
「あの一件を広めたのは他の女子たちだ。藻香と松雪は関与していない。――とにかくこうなった以上、俺たちは女子と組むことは無理だろう。当日は男二人で頑張ろう」
「お、俺……このイベントを一年の頃から楽しみにしてたんだよ。男女で班作って一晩キャッキャウフフだぞ! 夢のようだろ? それが本当に夢で終わるんだぞ! 最悪だ!! 俺の青春はここで終わるんだ!!」
萩原は机に突っ伏して本気で泣き始めた。それにしてもこの気の緩み具合は何なのだろう? これって学校行事だよね? どいつもこいつもピクニック気分だ。
紅義山に入った後は妖に扮した教師たちが襲って来て、これを撃退するというカリキュラムが行われる。
一応夜間は攻撃されないようだが、妖と戦うことを学ばせるための授業じゃないのか?
俺が呆れていると、少しずつ平静を取り戻してきた萩原が顔を上げた。
「転校してきたばかりのお前は知らなくて当たり前なんだけどさ、この学校じゃ二年の模擬戦が運命の分かれ道なんだよ」
「――は?」
「この模擬戦って班を自分たちで作るじゃん? これで以前から気になっていた異性と同じ班になれればアピールのチャンスだし、教師相手にカッコいい所を見せられれば確定したも同然というわけさ」
「……一応訊くけど、何が確定すんの?」
「カップル成立に決まってんだろ!! そのために皆、符術の訓練を必死にやってたんだよ!! この模擬戦で彼女作って学校生活がバラ色になるか、失敗して寂しい独り身になるかが決まるんだよ!! ほら、周りを見てみろよ! あの楽しそうな連中の顔を! あいつらは今、バラ色生活への階段を上り始めたんだよ!!」
周囲をよく見ると、どいつもこいつも幸せそうな顔をしている。頭が痛くなってきたぞ。
全員頭の中ピンク色! アピールって言うけど、符術にしても体術にしても妖と戦うための技術だぞ! 皆、本能のままに生きすぎだろ。
「――ちなみに、萩原は気になっている女子はいるのか? いたら駄目もとで頼んでみようか?」
「ぐすっ、ありがとう式守。お前いいやつだなー。でも、気になる子はいないんだ。――ただ、皆で楽しめればそれだけで良かったんだ」
「萩原――」
純粋にその時その時を精一杯に楽しみたいって事か。少し可哀想になってきたな。何とかしてやりたいのは山々だが、俺には何の力もない。
俺が不憫に思っていると、萩原が目を輝かせて楽しそうに話し始めた。
「――もしも、それで女子と仲良くなれば友達を紹介してもらえるかもしれないだろ? そこに素敵な出会いがあるはず!」
こいつのために真剣に悩んだ自分が馬鹿だった。こいつは放っておこう。
――さて、そろそろ全ての班が出来上がったかな。藻香たちは誰と組んだのだろうか?
藻香を探すと彼女が松雪と二人だけでいるのが目に入った。あれ? さっき何組か男子が声を掛けていたようだけど成立しなかったのか?
それに、その他の班は全部完成しているみたいだ。ということは、残っているのは俺と萩原の男子組と藻香と松雪の女子組だけだ。
「まだ班を作っていないのは式守君と萩原君、それに玉白さんと松雪さんの四人なので、自動的に班になってもらいます。よろしくお願いしますね」
楪さんが笑顔で強制的に俺たち四人を班にしてしまった。俺の任務がやりやすいようにしてくれたのだろうが、彼女たちは大丈夫なのだろうか?
「――あ! ぷいっ!」
藻香と目が合ったが、彼女は急いで顔を背けてしまう。松雪に至ってはノーリアクションである。
ちなみに萩原は志望校に合格したかの如く万歳を何度もしていた。
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