第22話 陰陽科の授業①
俺が玉白家で居候を始めてから二週間が経過していた。
その間、般若面の男が現れる事はなく平穏な日常が過ぎていった。俺はなるべく他の生徒と関わらないように一線を引いて生活していたのだが、そんな雰囲気をものともしない男がいた。
その男子高校生の名は
そういう関係から中高一貫のこの学校に通っているそうなのだが、本人は特に陰陽師になるつもりはなく今後家を継いだ際の後学のために親御さんに無理やり入れられたとのことだ。
非常に明るい性格でこのクラスのムードメーカーである彼はクラスで孤立気味な俺を心配してくれたようなのだが、それは最初だけの話。
破魔絹関連で破魔装束の話で盛り上がったのをきっかけに校内で行動を共にするようになった。
そして、俺が関わるようになった同級生がもう一人。藻香の親友の
ロングの黒髪で小柄な女子だ。高校にいる時のなんちゃってクールな藻香とは異なり、普段から表情をほとんど変化させない本物のクール少女だ。
俺が藻香と急速に距離を縮めている事に気が付き、何かと俺に突っかかってくる。
いきなり趣味や好みの女性のタイプは何かと訊かれた時にはお見合いの席かよと思ってしまったが、あの時の殺気に満ちた目は忘れられない。
小柄ながら獰猛な肉食獣にでも睨まれたような気分だった。俺の情報を集めて弱みでも握ろうとしているのだろうか?
この二名に関して般若面と繋がりが無いか調査してみたが結果は白だった。
加えて、同学年の他の生徒の動向をチェックしたが怪しい行動をしている者はいないようだ。
この調子だと学校関係者を調べても般若面に関連する情報は出てこないかもしれない。
ヤツの尻尾を掴むのが難しい以上、目の前に姿を現した時に叩くのが現実的か。
「おーい、式守。次は体育館で
「えっ、そうだっけ? やべっ、もうこんな時間か!」
考え事をしていたら、次の授業の事をすっかり忘れていた。萩原が教えてくれなかったら遅れていただろう。
急いで更衣室で体操着に着替えて体育館に行くと、授業開始一分前のギリギリセーフで到着した。
普段、移動教室ではノロノロ移動する男連中もこの授業の時だけは疾風の如きスピードで着替えて体育館へやって来る。
その理由は、この授業を担当しているのが楪さんだからである。
ジャージ姿だと彼女の抜群のボディラインが一目瞭然であり、血気盛んな男子高校生たちはこの授業を心から楽しみにしているようだ。
噂では何人もの男共が楪さんに告白をしたらしいが、全員玉砕だったらしい。
その理由は彼氏がいるからという真っ当な内容だったのだが、それでも二番でいいから彼氏にして欲しいとか意味不明の食い下がりをする者が後を絶たなかった。
少し冷静になれば教師が学生と付き合う訳にはいかないと分かりそうなものだが、そんな理屈が通じる連中ではない。
それと楪さんに彼氏がいるという話は本人から直接聞かされてはいないが、夜九時になると部屋にこもってしまうので恐らく彼氏と電話でもしているのだろう。
彼女の部屋の前を通りがかった時、楽しそうに話す彼女の声が聞こえてきた時があった。
だとすれば、いくら任務とは言え彼氏以外の男と同居する現状は彼女にとってあまりいい環境とは言えない。
近々、任務態勢について楪さんと話をする機会を設けた方がよさそうだ。
そんな教員の楪さんが授業を開始した。彼女から符術についての講義がされ、俺たちは座って授業を受けた。
「符術の前にまずは魂式の説明からしていきます。魂式とはその名の通り、魂をエネルギー源とした特殊な力です。魂式には炎、水、風、土などのように属性があり、生まれた時に得意とする属性が決まっています。私たちは魂式の力で妖と戦う訳ですが、その戦闘法には大きく二種類のパターンが存在します。それを――玉白さん説明してもらえますか?」
そのまま最後まで説明してくれると思いきや、途中で生徒に答えさせるパターンだった。
俺は気を抜いて聞いていたので少々焦ったが、当てられたのが俺じゃなかったので安心した。
楪さんを見ると一瞬こっちを見て悪戯っぽい笑みを見せる。もしかしたら、俺が授業に集中していない事に気付いて脅しをかけてきたのかもしれない。
――ちゃんと授業に集中しよう、そうしよう。そして藻香が立ち上がって質問に答え始めた。
勢いよく立ち上がったためか、大変立派なご双丘様がぶるんと揺れて周りから小さく「おおっ」と感嘆の声が漏れる。強いて言うなら俺も声が出てしまった一人だ。
「一つ目は退魔師です。彼らは生まれ持った属性の魂式と
「玉白さん、ありがとうございました。ちゃんと勉強しているようですね、満点です。座ってください」
楪さんは微笑み、藻香はちょっとしたドヤ顔を俺に見せる。随分得意げにしているようだが、そんなの俺でも答えられるわ。
その意思を目で藻香に伝えるが、彼女は気にしていない様子だ。そんな俺たちのやり取りに気付いてか、楪先生はこほんと一度咳払いをして講義を続ける。
「その陰陽師ですが、彼らは専用の護符を使用して符術を行使します。どのようにして符術を行うのか簡単でいいですから説明してください。それじゃあ――式守君、答えてもらえますか?」
くっ! もしかしたらと思ったけどやっぱり来たか。目を合わせないように下を向いていたが意味はなかったようだ。
符術の説明だろ、簡単じゃないか。俺は戦いの現場に身を投じてきた人間だ。当然、符術は何度も目にしている。
俺は藻香に負けない勢いで立ち上がり自信満々の笑みを見せる。
「符術は各属性とも威力に応じて三段階のランクに分けられています。例えば炎系の符術であれば低級に当たる〝火球〟は○ラ、中級に当たる〝炎球〟はメ○ミ、上級に当たる〝豪炎球〟はメ○ゾーマという感じです」
俺の周辺にいる同級生たちが、ざわざわ言い始める。もしかしたら例えが悪かったのかもしれない。
「他に例を挙げるなら風系の符術の場合、低級の〝疾風〟はバ○、中級の〝烈風〟は○ギマ、上級の〝風玉〟はバ○クロスといった具合です」
益々周りがざわつく。まだ分かり難かったのか。だったら他の属性で説明するまでだ。
「分かりました。それなら水というか氷になるんですが、ヒャ――」
「式守君ありがとうございました。残念ですが、判定不可という評価ですね」
「ええっ!? どうして!?」
俺は自分なりにちゃんと説明出来たはず。どうして実質零点扱いにされなければならないんだ。不服極まりない。
「式守君の説明はある意味分かり易いかもしれませんが、表現が危険すぎるので却下にせざるを得ないです」
楪さんから問題外の烙印を押され、周囲は爆笑の渦に包まれる。ちくしょう、こんなはずでは――。
ふと藻香を見ると目から涙を流しながら大笑いしていた。
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