――――――――――――

 たどたどしくはあったが、なんとか言い切った。緊張も、和らいでいく。


 ……これで断られたらどうしようか。論理を用いる? 理屈を並べる? ……それで人の感情を揺らすことができるのはきっと優秀な人間で、真逆の俺にはできない。


 そもそも、断られた時点でなにをしようが悪あがきだ……諦める他ない。


「…………花厳君」


「なんだ?」


 俺が聞き返すと、片瀬は毛布にくるまった状態でベッドから降り――そして、


「片瀬? どうし――――」


 毛布を置き去りに、片瀬は俺の胸に飛び込んできた。


「えッ、ちょッ、か、片瀬さん?」


 突然の出来事に俺は当惑とうわくする。


「……………………助けて」


 片瀬の変化に気付き、俺は呑気に狼狽えていた自分を責める。


 俺の胸に顔を埋めている彼女は……泣いていた。声をひそめ、弱々しく泣いていた。


 小刻みに震える肩、俺のシャツをギュッと握る手、『助けて』という答え。


 それだけで彼女の苦しみを理解できた気になるのは、傲慢が過ぎる。理解できたなんて軽々しく言えない。


 けど、この瞬間……ほんの少しだけなら、俺でも彼女の苦しみを和らげることができるかもしれない……それがたとえ、気休め程度だったとしても。


「ああ。任せてくれ」


 俺は彼女の背中に腕を回し、安心させるように抱いた。


 すると、片瀬は我慢するのを忘れ、声を出して泣いた。


 本題は……そうだな……彼女が落ち着いてからいいか。


 ――――――――――――。

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