第3話 お隣はギャル
なんとも時代遅れのワードチョイスに、自分で自分をドン引いてしまう。今更だけど俺、心の中だと陽キャにも勝っちゃうのよ。外だとなんの取り柄もないボッチだけど。
んなことはどうでもいいとして。
まあ、俗に言うギャルってやつだ。
規律を乱すような見た目を、お天道様が許しても、先生方が見逃してくれるわけもないってのは至極当然のことで、橘はしょっちゅう注意を受けている。
まともなスクールライフを送っていれば足を運ぶ機会がない生徒指導室も、彼女にとっては通い慣れた場、常連さんであるのは確かだろう。それでも髪色に変化はないが。
お隣さんということもあり、先生に対する橘の言い訳を耳に挟んだりもするのだが、これがまた天才的というか馬鹿というか……『染めてんじゃなくて地毛なの』とか『パーマじゃなくてくせ毛!』だので押し切ろうとするのだ。んで実際に押し通しちゃってるのだから凄い。
鉄拳制裁が当たり前だったのは昔まで。力による強制的な矯正がすぐに問題になる昨今、先生方が強くでれず、結果手を焼く羽目になる。
多分、橘もそれがわかっているから強気でいられるんだろう。教職員の皆さま……本当に、ご苦労様です。
そんな橘率いるティンカーベル集団があの中に、特に柊達と絡んでいるのが珍しい。
柊と橘、どちらもクラスではリーダー的存在。そのせいあって互いが互いのグループを敬遠しあっている節があった。
両者の間で表立った問題は、俺の知る限りない。が、互いが意識し合っているのは無関係な俺でもわかる。そもそも意識してなかったら皆仲良くやってるはずだし。
カースト上位勢が一堂に介しているところを傍観しているのは俺だけじゃない。あの場にいない他の連中も、普段通りを装いつつ、チラチラと様子を窺っている。
一触即発、ってのはさすがに大袈裟だが、ピンと糸を張ったような緊張感はあった。
…………なに話してるかさっぱりわからん。
他の連中が下手にいつも通りを演じているせいあって、内容までは聞き取れず――そうこうしている内に会合は終わってしまう。
橘達がその場を後にする形で。
「――――チッ」
席に戻ってきた橘は偉そうに足を組み、小さく舌打ちをした。見るからに不機嫌そうである。
つか毎度毎度思ってるんですが、その太ももの露出具合なんとかなりませんかね? 校則? なにそれ美味しいの? って感じのスカート丈だからどうしようもないんだけど……健全な男子高校生が隣にいることを少しは考慮してね? お願いだから。
「……あ? なに見てんだよ気持ちわりーな」
「あ、いや、なんでも」
虎の尾を踏んでしまった俺に、橘の鋭い眼光が襲いかかる。
俺はすぐさま机上に視線を移し、縮こまって敵意はありませんをアピールする。
すいません本当にすいません! じろじろ見てたらそりゃ気分を害しますよね気持ち悪いですよね! なんなら見てなくても気持ち悪いですよね俺! 大丈夫です自覚してます、自覚した上でめっちゃ反省してるんでどうか許してくださいお願いします!
「…………チッ」
……許された。舌打ちだけで済んだ。
俺はホッと安堵する。同時に席替えをしたい欲が膨れ上がる。
やっぱギャルって怖い。そう俺が実感していると、放置していたスマホが短く振動した。
ディスプレイに目を向けると、そこには柊からの新たなメッセージが。
『今日の放課後、いつもの場所に来なさい。話したいことがあるから』
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