第13話 戦いの記憶

 それにしてもあっという間に賊たちがたむろっている場所に飛ばされてしまった。ルーナのスパルタなやり方で強さを取り戻せればいいけど。


 木の枝だけでどこまでやれるのか、飛び出してみるしかないよな。

 まずは身を隠しながら少しずつ近付いて、それから不意打ち攻撃を仕掛ければ――


「――あぁん!? 何か聞こえなかったか?」


 げげっ。物音を立てたつもりは無いのに、早くも戦闘開始?


「……おいそこのガキ! それで隠れてるつもりか? 出て来い!!」


 上手く木陰に隠れたつもりなのに、一体どうして……かと思えば木の枝が長すぎじゃないか。これじゃあしゃがみ込んでも意味なんて無かった。


 戦うことは決定していたし、やるしかなさそう。


「い、いやぁ……どうもこんにちは」


 もっと他に何か言えなかったのかというくらいに、情けない登場をしてしまった。とはいえ落ち着いて山賊を眺めると、人数は4、5人程度でそれぞれ異なる武器を手にしている。


 錆がついたアックス、もうすぐ切れそうな鞭、使い古した大剣……俺が持つ木の枝と大差ないような。


「おいおいおい! 随分と舐めた武器を手にしてんなぁ? まさかそんなもんでオレたちとやろうってのか?」

 ――うっは、木の枝かよ! どこのガキだ?

 ――顔を拝まれた以上、無傷じゃ済まさねえ。


 山賊たちの顔はいくつかの切り傷がついていて、何かと戦った証のようにも見える。手にする武器の惨状を見る限り、魔物につけられた傷のような感じだ。


 今いる山道付近には、手強そうな魔物の気配は無く襲われる心配も無い。恐らく強い魔物を避けるようにしてここに来た。そうでなければ俺にからむ余裕は無いはずだ。


 勇者としての強さは未だ取り戻してはいないけど、敵としての"人間"を相手に慣れて行くしかないよな。


「……木の枝の先端が命中すれば、あんたたちの方が危ない目に遭うと思いますが?」


 衰退してからの復帰戦……いや、やり直しからの初の実戦になりそうだ。フィーネ率いる姉弟子や末弟子の彼女たちに鍛えられて、どこまで戦えるようになったのか。 

 

 木の枝だろうと何だろうと立ち向かうしかない。


「ぐははっ!! 木の枝を手にして震えてやがる!」

 ――くく、哀れなもんだな。

 ――ガキ一匹だけを相手に武器を使うのは勿体ねえ。

 ――拳で十分な相手だぜ。

 

 などなど、自分たちが持つ武器は使うつもりは無いらしい。それはそれで好都合。ひらけた場所で戦いやすいし、素早く動いて懲らしめてやる。


 冗談抜きでルーナ特製木の枝は、殺傷能力が高そうだ。


「けっ、生意気なツラをしてやがる。もう勝った気でいるんだろうが、ここから先の山に行くのにてめえは邪魔だ!! 容赦なくぶっ潰してやらぁぁぁぁ!」


 山賊の親玉らしき男が不意打ちを突くようにして向かって来た。拳をぐるぐると回しながら向かって来る姿だけ見れば、怖さは感じられない。


 力を込め過ぎているのか、動きが緩慢で拳の勢いが死んでいる。その隙を狙って脇から枝を突いた。


「うげっ!? ちいぃ……すばしっこいガキだ。てめえらぼさっとしてねえで一斉にかかれ!!」


 手ごたえ十分。山賊の親玉は鋭利な棘を肌で感じ、急いで俺から離れた。そのまま腕で脇を守るように身を屈めている。この程度の動きなら難なく出来るかも。


 親玉が動きを止めてる間、他の山賊たちが「ぶっ倒れやがれ!!」と叫びながら俺の元に突っ込んで来た。


 親玉の動きすら緩慢だったのに、子分が早いわけがない。そう思っていたのに、


「――うっ!?」


 少しは頭が回るようで、背後に回られて肩を押さえつけられ、両腕をがっしりと掴まれてしまった。子分の手柄を見て、すぐに親玉の男が寄って来た。


「ぐはははっ……どうだ? いくらすばしっこくても、そんな状態じゃ動けねえだろ? てめえの枝先攻撃もまぁまぁだったが、たった一匹だとそんなもんだな!」


「……俺をどうするつも――!」

「おおっとぉ、拳がまともに入っちまったぜ」


 全身の動きが封じられていたせいで、親玉の拳がいつ来たのか気付かなかった。それもそのはずで、全く痛みを感じない。


 んんん? すごい得意げな顔をしてるってことは、渾身の一撃を喰らった……んだよね? なんか全然痛みが無いんだけど……これはどういう――


 そう思っていたら、拳を入れた男が目の前でうずくまっている。もしかして後から痛みを感じているのか。


「お、おおおぉぉ……い、いてぇぇ……」

 ――どうした?

 ――お頭ぁ、ぎっくり腰か?


 子分の面々が心配そうに顔をのぞかせている。わずかながら掴む力を緩めるも、やはり抜け出せそうにない。


「分からねえが、こいつの体が半端なくかてえ。何か鉄板でも入れてやがる……くそが、お前ら! このガキを同じ目に遭わせてやれ!!」

 

 俺を捕まえていた子分たちの腕や手が一斉に離れた。これなら一瞬の動きだけでもこいつらを何とか出来る。


 そう思って動こうとしたら、子分たちの姿がどこにも見当たらなかった。俺の目の前にいるのは、親玉の男が一人だけ。


 突然の出来事に、親玉の男も唖然とした表情を見せている。


「あれ? え?」


 同様に驚いていると、姉弟子である彼女の声が上空から聞こえて来た。


「リオくーん! 探したよー」


 どうやら俺を見つけると同時に、子分たちをどこかに吹き飛ばしたらしい。

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