第104話
――あぁ、気まずい
灯乃は隣を歩くみつりの様子をチラチラと伺いながら、長い廊下をただ黙々と進む。
普段睨まれることはあっても、肩を並べて歩くなんてことは絶対にないみつりがすぐそばにいる。
それだけで灯乃のプレッシャーは、かなり大きくなっていた。
――どうしよう、何か話さなければ
「あ、あの……協力してくれてありがとう」
「はあ?」
「えっあの、だから……えっと……」
とりあえず礼を言っておこうと思ったのだが、何が気に障ったのか、みつりは眉をつり上げて灯乃を睨んだ。
「何でアンタに礼を言われなきゃなんないのよ?」
「そっそれは、私達のこと秘密にしてくれるし、雄二のことも一緒に説得してくれるし……だから」
「別にアンタのためじゃないんだけど?」
「うっ……まぁ、そうなんだけど」
みつりの口から厳しい言葉が返ってくる。
予想はしていたが、灯乃には思った以上のダメージで、まさに取りつく島もないかのように冷たい視線が彼女に降り注いだ。
そうなると尻込みしてしまうのか、それからの会話が続けられなくなり、灯乃は再び黙ったまま道のりを歩く。
向かう先は二人とも同じ、空手部の朝練がある道場。
マネージャーであるみつりは勿論、雄二が来る可能性を考えて灯乃も向かう手筈になっているのだ。
それに灯乃とみつりが出来る限り単独での行動を避ける為でもある。
灯乃はその決定を了承し、黙ってみつりについていかなければならなくなったのだった。
――本当は、一人で雄二に会いたいんだけどな
灯乃はそう思うが、それを主張すると雄二と通じていることが知られてしまうかもしれない為、できなかったのだ。
しかしそれも想定内のこと、何とか二人で話せるように落ち着いて機会を伺おうと、灯乃は考えていた。
そう、落ち着いて。
灯乃はみつりを一瞥すると、暗澹たる思いで肩が窄んだ。
――でもやっぱり気まずい……
本当に上手く動けるのか不安になりながらも、楓と早く合流してこの空気から解放されたいと、灯乃は強く願うのだった。
*
一方で春明は、正門から少し離れた目立たない場所で車を停め、様子を伺う。
他の校門へは楓の仲間がそれぞれ張り込んでいて、雄二が現れればすぐに連絡が来るように手筈を整えている。
それで彼を発見次第、素早く確保できればそれに越したことはないのだが、朱飛がそう簡単にさせてくれる筈がない。
まずは様子見だけになるだろうと春明は思い、HRが始まる頃合に潜り込む準備をしていた。
するとその時、
「――やっぱりそう簡単にはいかなわよね」
春明は窓から正門の方へ目を向けながらそう呟くと、その視線の先に数人の女子生徒達に囲まれて登校してくる雄二を見つけた。
女子達は灯乃を虐めていたあの6人で、目当ての雄二と登校できて気持ちが舞い上がっているのか、キャッキャッと黄色い声が飛び交っている。
彼らの間でどういう話し合いがなされたのかは知らないが、あんなに雄二の周りを固められて目立たれると、こちらも容易に手は出せない。
不本意だとばかりに雄二が仏頂面を見せているところを察するに、恐らく朱飛の指示だろう。
「向こうに交渉する気はないのかもね」
春明は思った。
もしこちらと交渉する気があるのなら、雄二の口から灯乃を手懐けさせるのが一番効率がいい筈。
しかしその雄二をあんなに身動きがとれないような状況にさせるということは、話し合いなど後回しでとにかく灯乃を誘き出して手っ取り早く連れ去ってしまおうという魂胆なのだと、想像がついた。
「さて、どうしようかしら?」
女子達と共に校内に入っていく雄二を眺めながら、春明は不敵に笑った。
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