第57話
邸宅に到着すると、既に出迎えとして灯乃と朱飛が彼らを待ち構えていて、車の扉が開くと同時に二人の安堵する姿が映った。
「お帰り、雄二。お疲れ様」
「ただいま」
雄二が車から降りると、反対側の扉を朱飛が開け春明が降りる。
そんな彼の手に雄二の荷物が握られているのを朱飛が見つけると、素早く両手を差し出した。
「春明様、荷物は私が……」
「いいの。あたしが運ぶわ」
何故か嬉しそうにニコニコしている春明。
どうやら雄二に礼を言われたことで喜びが溢れているようだったが、ニコニコというよりはもはやニヤニヤに近いくらいに顔が崩れていた。
しかしそんなことなど気にもとめない朱飛は、怪我をしている春明に荷物を持たせるのかと、雄二を睨む。
「うっ、分かってるって」
今にもクナイが飛んできそうな危機感を覚え、雄二は慌てて春明から荷物を取り戻すが、今度は春明が不満そうに頰を膨らます。
「大丈夫よ、あたしが運んであげるって」
「いいから。春明さんは早く傷を治してくれよ」
そう言って、雄二が宥めるように春明の頭を優しく撫でると、まるで乙女心を刺激されたと言わんばかりに春明の頰が赤くなった。
――大きくて温かい手。やっぱり雄二君って、ステキ……!
そんなハートの目をキラキラとさせている彼を見て、灯乃が助手席から降りてくる仁内にボソッと耳打ちした。
「……ねぇ。どうしちゃったのかな、春明さん。何か恋愛漫画の主人公みたいになっちゃってるけど?」
「オカマの考えてることなんて、俺が知るかよ」
――グサッ!
その瞬間、仁内はクナイの襲撃に遭い、倒れた。
彼の失言が朱飛の耳に届いたようで、春明を侮辱するととったのだ。
ただでさえ春明の意識が雄二に向いているというだけで、彼女を不愉快にさせているというのに。
――春明様……
朱飛は何とか表情に出さないようにしつつも、強い口調で彼に近づく。
「春明様、どうかお休み下さい。そのようなこと、あなた様がすることではありません」
彼の足を気遣って朱飛は言い聞かせようと動くが、その時、彼女の手元にドサッと雄二の荷物が舞い込んだ。
雄二の顔がニッと笑う。
「そうそう。荷物運びなんて、こいつに任せておけばいいんだから」
――カチン
朱飛の中で、即座に雄二への総攻撃が開始された。
だが当然春明がいる手前、実際にそれを行うことはできない。
平静を決め込もうとする彼女にも、眉間に皺が寄った。
その一方で、灯乃が自動的に仁内の荷物を持つ。
「ほら。行くよ、仁ちゃん」
もはやどうにでもしてくれとばかりに地面に伏したまま動かない仁内を、灯乃は引きずりながら部屋まで運ぶ。
そんな元気を取り戻した彼女の姿を見送ると、雄二もまた部屋へと歩き出した。
殺気に満ちた朱飛と共に。
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