第36話 贈り物
ギルマスから今回の謝礼と『剣聖』への手紙を押し付けられた俺は今、何故かメリッサさんと一緒にギルドの隣に店を構えている酒場にいる。酒場と言っても、よく漫画なんかで見るような内装では無く、どちらかと言えばバーのようにどこか小洒落た雰囲気の店だ!
ギルドに併設されている酒場と違ってこの店は静かな為、落ち着いて酒を楽しんだり、大事な話をしたりするのに適していると言って、メリッサさんに強引に連れて来られた。
最初こそメリッサさんの意図が分からず警戒していたが、バーテンダーの男性からおススメを頂くと、その警戒も吹っ飛んだ。
理由は簡単、バーテンダーからのおススメがめちゃくちゃ美味いからだ!
俺は自慢じゃ無いが、酒に関してはかなり評価のハードルが高い!
なにせ地球にいた時には、新メニューを出す度にその料理に合うワインをテイスティングしたり、料理に使うワインや酒などにもかなりこだわった程だ。
その為、この街に来てから最初に飲んだワインを味わって、俺はかなりショックを受けたが、今はただ感動と感謝が心を満たしている。
俺はグラスに入っている酒を飲み干すとバーテンダーの男性にお代わりを注文する。
「すいません。同じ物をもう一杯お願いします」
「畏まりました」
バーテンダーである初老の男性が飾られている幾つもの酒をシェイカーに入れていき、一気にシェイクしていく。
(このバーテンダーの人、カッコいいなぁ〜。まさにロマンスグレーと言う言葉が似合う人だよなぁ〜)
俺がシェイカーを振るバーテンダーの人に見惚れていると、横にいるメリッサさんが話しかけて来た。
「すみませんケイタさん。一つお聞きしても良いでしょうか?」
「えっ?ええ、大丈夫ですよ」
突然話しかけられた俺は思わず空返事をしてしまった俺は、訂正しようとした時には既にメリッサさんが
「それではお言葉に甘えてお聞きしますが、何か重要な事を隠していませんか?」
「な、何の事でしょうか?特に隠している事は無いと思いますよ。それに、いきなりどうしてそんな事を聞いて来たんですか?」
「勘、と言うと少し語弊がありますが、これでも120年生きてますからね!それなりに分かるんですよ。その人が嘘を付いていたり、何か重要な事を隠していたりとか、そう言う事が自然と分かっちゃうんですよね」
メリッサさんはそう言いながら、どこか寂しそうであり、悲しそうな表情をしていた。
もしかしたら、昔なにかあったのかも知れないが、紳士な俺はそんな野暮な事は聞かず、話を続けた。
「残念ながらメリッサさんの勘は外れですよ。俺が隠している事と言えば、メリッサさんに話したスキルの事ぐらいですし、それ以外は特に思い当たらないですね」
俺は酒を飲みながらメリッサさんの勘を否定する。
(まぁ、メリッサさんの勘は当たってるんだけど、もし知られたら例えメリッサさんでも消さなければいけないしね)
「そうですか、分かりました。……ああそうでした!これ、ケイタさんへ私からの細やかな餞別です!受け取って下さい」
メリッサさんはそう言って、羽織っていたコートの内ポッケからブローチを出して俺に渡して来た。
「ありがとうございます。ちなみにこのブローチにはなにか意味があるんですか?」
俺の何気ない質問に、メリッサさんは少し顔を赤くしながら
「えーと……私の故郷では、旅立つ人の安全を祈願して、ブローチを贈る習慣があるんですよ!なので、ケイタさんの旅の安全を祈って贈りました」
と言って、なぜか下を向いてしまった。
「そうですか!では遠慮なく貰っておきますね!ありがとうございますメリッサさん!それではサヨナラです」
俺はブローチを首に下げると金貨を一枚置いて店を出た。
「いやぁ!それにしても美味い酒だったなぁー!まさか異世界にもカクテルみたいな物があるとは思っても見なかったよ!」
俺は軽く背伸びをした後、宿屋へと戻りそのまま眠りについた。
*******
メリッサside
ケイタが帰った後、メリッサは一人で酒を飲んでいた。
「………はぁ」
メリッサはグラスを持ちながらため息を漏らす。すると、バーテンダーの男性がメリッサに話しかける。
「おや?どうしましたかメリッサ殿?珍しくため息などついて、もしかして先程の男性の事でも考えていたのですかな?」
バーテンダーが揶揄いながら聞くと、メリッサは不満げな表情をしながら
「ええそうよグラス。彼は間違いなく重要な事を隠してるわ。私の立場的には聞き出さないといけないんだけど、彼を見てると別にどうでも良くなっちゃうのよねぇ〜。何でだと思う?」
「ふふふ。まさかメリッサ殿がここまで骨抜きにされるとは彼も中々の男ですなぁ。それに、たしかメリッサ殿の故郷ではブローチを異性に渡すと言う事は、『貴方の無事を見守っています』って意味ではなかったですかな?」
「なんだ、グラスは知っていたのね。そうよ。あのブローチも、元々は愛しい人が戦いに出る時にブローチを渡して無事を祈るの行為が起源と言われているわ。それが今ではプロポーズの証としても使われているわね」
メリッサは不貞腐れた表情をしながら話す。
そんなメリッサを見てグラスは
「いやはや、暗殺者をやめてはや10年。まさか『
伝説の暗殺者「
そんなグラスだが、ギルマス同様メリッサの秘密を知っている為、まさかメリッサが一人の男の事をこんなにも思っている事に驚くと同時に嬉しくもあったりする。
笑っているグラスに対して、メリッサはグラスを乱暴に置き、不機嫌そうな顔をしながら
「ちょっと!笑わないでくれないかしら!私だって困っているんだから!それに、私の事をとやかく言う前に、自分の事を心配したらどうなのかしら?」
「おおっと!これは手厳しいですなぁーメリッサ殿は!」
グラスは手を頭に置いて苦笑いをする。
「大体ねー!グラスもギルマスも私の半分も生きて……」
メリッサが説教を垂れようとした時、店のドアが開き、ギルマスがやってきた。
カランコロン!
「こんばんはー!ようやくひと段落ついたから遊びに来たわよ!」
「いらっしゃいませギルマス。どうぞこちらへ」
「ありがとうグラス。いつものね!」
ギルマスは注文をするとグラスの指定した席に座る。なんとそこはメリッサの隣の席だった。
その後、ギルマスがメリッサの説教を延々と聞き続けたのは言うまでもない。
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