Chapter7:乱舞
「ボス、ここに可変ウォーレッグが一直線に接近しています!」
「……早すぎる!」
部下からの報告に、ドレイク・モントレーは眉を顰めた。
モントレー家の本邸は、大混乱に陥っていた。
オービタルリングで目撃された、2機のウォーレッグの戦闘。月面のオルドリンシティ付近で観測された、巨大なビーム。そしてモントレー家保有のこのスペースコロニーに接近する、未確認のウォーレッグ。
それらは全て、伝説の強化人間"エキドナの子供達"の一人が、ここに迫っている何よりの証拠だった。
無論ドレイクも手をこまねいて見ていた訳ではない。
事の発端は自分達の犯罪行為である以上、公共権力に庇護を要請することはできない。
自らのコネを利用し、裏社会の者達に助けを求めたのだ。
だが贔屓の殺し屋ギルドを始め、多くの者が"エキドナの子供達"の名を出しただけで苦い顔をした。
更に闇の情報網を利用して手に入れたターミナルの番号を通じて、謝罪の電話を入れたが、相手はそもそも応対すらしなかった。
それでも24時間は猶予があると見ていたが、有効な手立てを何一つ講じられていないこの段階で、彼が現れたのは完全に想定外であった。
己の身を守るために戦わねばならない状況は確実に起こる。
そのために今コロニーにある、モントレー家が所有するウォーレッグ全機に、出撃用意をさせている。
その様子を、ドレイクの書斎からホログラフで映し出されたカメラ映像で窺っている者がいた。
「どうやら、ぼく以外の2人は失敗したようだね」
右手で整髪料まみれの黒髪を弄る少年は、プレジデントデスクに着くドレイクに向かって言った。
ソファの背もたれに左腕を掛け、組んだ両足を靴を履いたままテーブルの上に乗せた、慇懃無礼を絵にかいたような態度だ。
「せめて奴の手の届かぬ場所に逃げるまでの時間稼ぎをしてくれればと思ったが、甘かったか」
深刻な表情のドレイクを尻目に、少年は余裕
「話はそれだけかい? それじゃ、そろそろ行かせてもらうよ。3億テールも払ってもらったんだ。ドレイク・モントレーとご家族様の安全は、ぼくがきっちり保障する。それと事前の約束通り、宇宙用タスクとそのパイロットをあるだけ借りていくよ」
モントレー家のバナール球型コロニーから、まるで
スクリーンモニターに表示される識別タグはいずれもタスクの宇宙仕様。色はライトグレー。関節部にシーリング処理が施され、様々な方向にバーニアノズルが伸びる八角形のバックパックが特徴だ。
ハイドラはハーキュリーズの変形を解き、ブラスターライフルを手に戦闘態勢を取った。
最後に1機だけカスタムウォーレッグの反応が現れた。スカンダやショッキング・ピンクと同じように、自分を屠るために送り込まれた刺客だろう。
カスタムウォーレッグを含めて機数は26機。普通のパイロットが一人で相手をするには絶望的な数だが、ハイドラは宇宙が黒く見えない程の敵群と戦い、勝利したこともある。
十分、やっていける数だ。
と、そこで不意にコックピット内にロックオン警報が鳴り響いた。
まだ拡大表示でなければ姿形が分からない程距離は空いているし、敵機が攻撃してきた様子もない。
疑問に思う間もなく、身体はハーキュリーズを急加速・直進させる操作を行っていた。
直後、数瞬前までハーキュリーズが居た場所に四方八方から黄色いビームが飛んできた。
ハイドラの死角からの攻撃だったが、機体のカメラは確かにその正体を捉えていた。
スクリーンモニターに表示したある位置のカメラ映像に、楔型の物体がビームを放つ姿が確かに映っていた。
ビームの本数からして少なくとも10基以上はある。これほどの数のRADをタスク1機が扱うのは非常に困難である。
間違いなくカスタムウォーレッグからのものと見ていいだろう。
事実、攻撃を終えたRADらしい複数の光点が、1機のウォーレッグに向かって戻っていくのが見えた。この兵装は推進及び攻撃のためのエネルギーを補給するため、定期的に母機に戻る必要がある。
ウォーレッグ群に接近するにつれ、編隊を組む宇宙用タスクを率いるように飛ぶ、オレンジ色のカスタムウォーレッグの姿が像を結んだ。
適度に直線も使われているハーキュリーズに対し、ほぼ曲線だけで構成された細身のフォルムは、まるでボディスーツを着た人間のようだ。
手足は今にも折れてしまいそうなほど細長く、一体どこにどうやって駆動系、特に超伝導モーターを仕込んでいるのかと尋ねたくなる。
空間機動には必須ともいえるスラスターバーニアは、両足と両肩に集中配置されている。
左上腕部に沿ってその細さに不釣り合いな、偽造品のナンバープレートが貼られている。ナンバーは"LPC0W2-CS3905"/"G15-17"。当然データベースに登録されているナンバーではない。
ほぼ球形の頭部は、ゴーグル型のランプセンサー以外に特にこれといった機材は装備されておらず、いかにもヘルメットという形をしている。
そして背中にありながらも強く目を引く、まさに
例によってパイロットが通信を繋いでくる。最近の
『やあ怪物坊や。この"シュタッヘルシュヴァイン"の遠距離RAD攻撃はお気に召してくれたかい?』
ハイドラの予想通りの名前の機体に乗っていたのは、銀縁の眼鏡をかけた年若い少年だった。
頭にはヘルメットを被らず、レイヤーロング気味の黒髪が整髪料で光っている。
左耳では銀色のイヤリング。揺れている目玉のようなチャームが
背もたれとヘッドレストしか見えないが、パイロットシートは明らかに牛革だ。
要するに彼は、他人と違うことをする自分に溺れる、自己顕示欲の塊といったところか。
ハイドラの答えを待たずに、シュタッヘルシュヴァインは再びRADを繰り出した。
再びロックオン警報が鳴り響き、スクリーンモニターの立体レーダーとコンソールモニターの平面レーダーに大量の赤い表示が現れる。
だが相手の主武装がRADであることは、大きなチャンスであった。
ハッキングで奪うことができれば、自らの戦闘力を強化し、同時に相手の戦闘力を奪うことに繋がる。
ハッキングでウォーレッグを操れないこともないが、今までそれをしなかったのはRADよりも構造が複雑であるということが一つ、もう一つはそれが今のハイドラに残された、最後の人の心だからだった。
シートの下からキーボードを取り出し、コンソールの手前にセットした。
問題は奪うまでどう持たせるかだ。
今回は月面と違い、周囲に遮蔽物になるような物体がない。
ハーキュリーズの速力と運動性をフルに活用して躱し切るしかないだろう。
ハイドラはハーキュリーズのペダルを一気に限界まで踏み込んだ。
「んじゃ、適当に始めちゃってよ。ぼくも勝手にやらせてもらうからさ」
RADがバックパックのチャージポートを次々と離れていく中、アレンはタスク達に通信でフランクに指示を送った。
コードネーム:アレン/公称年齢:19歳/本業:ハッカー。
ダークハッカー界では知らぬものは居ない若き天才兼業ハッカー。殺し屋も副業の一つに過ぎない。
同じギルドの殺し屋達の多くが"エキドナの子"抹殺依頼に躊躇する中、真っ先に名乗り出たのが彼だった。
アレンは優れたハッカーであると同時に、強烈な出世欲の持ち主でもあった。
裏社会に己の時代を
臆病者は指を咥えて見ているがいい。この抹殺依頼もステップの一つに過ぎない。"エキドナの子"を殺せば、必ずその名声は響き渡る。ぼくの時代にまた一つ近づける――彼は頭の中にその考えを渦巻かせながら、この戦いに挑んでいた。
アレンは二つのアームレストに渡されるように置かれたキーボードで、各RADの挙動を瞬時にプログラムし始めた。
まずは基本だ。
5基を自らの直掩に付け、残る10基を攻撃へと向かわせる。
敵はこちらに猛スピードで突っ込んでくる。この速度での急激な方向転換は、パイロットに相当な負担がかかるはずだ。
敵ウォーレッグとシュタッヘルシュヴァインの間、一直線の予想進路を取り囲むようにRADを配置。
避けられるものなら避けてみせろ。
そして相手はそれをやってのけて見せた。
白いウォーレッグは突然、鋭利な軌道を描きながらRADのビーム攻撃を回避したかと思うと、次の瞬間にはシュタッヘルシュヴァインの目と鼻の先に現れ、ライフルを突きつけていた。
間髪入れず直掩のRADが対応する。
敵のビーム発射に合わせて5基のRADがビームを束ねて放ち、干渉爆発で相殺する。
金属粒子の光が飛び散る中、敵ウォーレッグが離脱していく様子がレーダーに映った。
強敵だ。必中を期した攻撃を我が身を顧みない機動で堂々と躱して見せ、自分は攻撃に失敗すれば深追いせずに身を引いた。
アレンは少しだけ、"エキドナの子"に対する認識を改めねばと思った。
「やるじゃないか。これは、ぼくもちょっと本気を出さないとね……!」
RADがこちらに向かって当てずっぽうに数発ビームを撃ち、そのまま退散していく。
シュタッヘルシュヴァインから距離を取ったその勢いで、ハーキュリーズは2機のタスクに腕部の電磁バルカン砲を見舞った。
かつてない速度で飛行していたが、発射された重レアメタル弾は2機のコックピットを正確に撃ち抜いた。
ハイドラはそこで一息つこうとした瞬間、吐血した。
敵の攻撃は読み切っていたが、回避のために、ウォーレッグ形態での急制動と方向転換・高速巡航形態での急加速と直進を、短いスパンで繰り返すという、強引な機動を機体にも自分の身体にも強いた。
パイロットスーツに耐G機能がなければ、確実に気絶していたし、無茶な操縦に応えてくれたハーキュリーズにも感謝しなければならないだろう。
だが今の突入で、こちらの有利に繋がる情報を得ることができた。
母機からRADへ命令を入力する際、お互いに対する認証キーとなる、双方向アクセスコードの傍受に成功したのである。それも15基分全て。
当然暗号化されているが、疑似乱数予測ソフトに解読を急がせている。
後は吉報を待つだけだ。
今のうちにアクセスに成功したら組み込む、書き換え用のプログラムを組んでおこう。
ハイドラは、前方の視界を塞ぐように現れた3機のタスクにブラスターライフルを撃ち込み、爆炎と爆炎の間に機体をねじ込むようにして、強引に前進した。
鋭いくの字を描きながら敵ウォーレッグが再び接近してきた。
シュタッヘルシュヴァインから見てやや上方に位置しようとするルートだ。
ここまでの間に、相手がついでのように5機の宇宙用タスクを撃墜する様子を見ていたアレンだが、全く動じることはなかった。
「タスク位くれてやるよ」
再びRADを繰り出す。しかしバックパックを離れたのは左側の5基だけだった。
敵の予想進路上に配置するという点は変わらない。
だがこれこそがアレンの本領であった。
「さあ見せてあげる。ぼくの三段攻撃を!」
続いて中央のRADがバックパックから放たれる。
15基のRADを3つのグループに分け、1つが攻撃を行っている間に残る2つのグループが移動と補給を済ませることにより、間断なき連続攻撃を行う。
これこそがアレンとシュタッヘルシュヴァインだけができる波状攻撃であった。
既にアレンの脳内では、敵の白いウォーレッグが四方八方から撃たれたビームによって、蜂の巣と化して破壊される姿が描かれていた。
ハーキュリーズはローリングをかけながら、第1波のうち2基のRADを速射モードのブラスターライフルで撃ち落とした。
第2波は左右から迫る3基を腕部バルカンで破壊し、正面に進路を阻むように現れた1基をシールドの先端で粉砕する。
そこから下方のシュタッヘルシュヴァインへ向けて直角に急降下をかけ、第3波として立ち塞がった1基を、プラズマバトンで切り裂いた。
波状攻撃のつもりだったのだろうが、ハイドラから見ればお粗末としか言いようがない攻撃だった。
まず第一にRADが配置に就いてから、攻撃までのラグが長すぎる。
こちらの動きを予想して配置していたところまでは良かったが、これでは『ここから攻撃するから対処してくれ』と言っているようなものだ。
第二にRADによるグループの間も開きすぎている。
その隙を味方の攻撃で埋めるという手もあったろうが、その役割を担うであろうタスク達との連携が全くできていない時点で、落第だ。
そんな評価がハイドラの脳裏をよぎった時には、シュタッヘルシュヴァインがハーキュリーズの行く手で無防備な姿を晒していた。
急降下の勢いを維持したまま、右手のプラズマバトンを逆手持ちに変える。
機体にはまだ利用価値がある。パイロットにだけ死んでもらおう。
目と鼻の先で急減速。プラズマバトンの先端で、コックピットブロックとパイロットだけを正確に貫いた。
『ぐっ!?』
偶然繋がったらしい通信から聞こえてきた、パイロットの断末魔の呻きらしい声と共に、シュタッヘルシュヴァインは力なく手足を垂れた。
その背中にハイドラのものとなった8基のRADが戻っていく。
そう、ハイドラは敵が操るRADにハッキングを仕掛け、プログラムを書き換えて自分の物とすることに成功したのである。
アクセスコードの解読が間に合わず、7基は破壊を余儀なくされたが、これだけあれば充分戦える。
今は1秒間に8.5文字の速さで、攻撃のためのプログラムを組んでいる最中だ。
丁度良く、20機のタスクがこちらに接近してきた。
ゆっくりと、確実に片付けていこう。
手にした銃火器類を構えるタスク群に、ハーキュリーズが我が身を晒すように向き直る。
その背後にもう動かないシュタッヘルシュヴァインを離れたRADが、ハーキュリーズを中心にビームランプを前方に向ける形で円形に展開する。
次の瞬間、8基のRADは、0から最高速度への矢のような急加速で敵機に向かって飛び出した。
ハイバイブダガーを構え、先陣を切って突っ込んできた1機のタスクがまず犠牲になった。
四方八方から放たれたビームが手足、頭部といった各部位をもぎ取り、最後にコックピットを丁寧に撃ち抜いた。
続いてサブマシンガンを向けるタスクに、獲物に襲い掛かるオオカミのようにRADが殺到する。
相手は正面に展開した1基に銃口を向けるが、照準が甘い。手間取って当てずっぽうに撃っている間に、悠々と射点に就いた残りが背後からハチの巣にする。
ロングライフルを持っていた3機目は、元を断とうとハーキュリーズに狙いを定めたが、周囲が見えていない。
右横合いからのRADの1発目でライフルが暴発し、驚く間もなく追い撃ちの7発で消し飛んだ。
急旋回を掛けどうにかハーキュリーズ左側に回り込もうとするタスクを、人というデッドウェイトの無い無人兵器特有の超高速でRADが追い抜き、先回りする。
突如正面に現れた攻撃端末に対し、敵は慌ててショットガンを引き抜くが、間に合わない。照準を合わせる暇すら与えず、ビームが無慈悲に貫いた。
蛇行機動で必死に離脱しようとする5機目は、自分から待ち伏せするRAD群へと入っていってくれた。
まるでパン屋の電動スライサーで切られる食パンのように、機体がビームで分解されていく。パイロットは何が起きたかさえ分かっていないだろう。
敵パイロットが組んでいた滅茶苦茶なプログラムを組み直し、できるだけ少ない消耗で戦ってきたが、それでもエネルギーが底を尽きつつある。少し補給時間が短すぎたか。
ハイドラが子機に呼び戻す指示を出したのを狙うように、1機のタスクが右肩に担いだ4連マイクロミサイルランチャーを斉射してきた。
補給命令をキャンセル。すぐにRADに迎撃の指示を出す。
5基がハーキュリーズの前に網状にビームの弾幕を展開。着弾前にミサイルを破壊する。
逆噴射で後退するタスクに残り3基で反撃。ビームは3発共に胴体に命中した。
改めてシュタッヘルシュヴァインのバックパックにRADを戻す。
味方のいない現在、RADへの補給はそのまま大きな隙に繋がる。敵もかなり距離を詰めてきている以上、もう任せ切りで戦う訳にはいかないだろう。
胴体だけを持ち運びやすいように、シュタッヘルシュヴァインの両腕と下半身をプラズマバトンで切り落とす。
残った14機の宇宙用タスクが、ハーキュリーズを遠巻きにしながら、様子を窺っている。
ハイドラはRADのチャージポートをハーキュリーズの左手に持たせると、1機のタスクに向け機体を突進させた。
第2ラウンドだ。
射出されたRADがハーキュリーズに先行して、最初の1機に攻撃を仕掛ける。やや後方から追い立てるように。予想通り、相手はビームを回避しながらこちらに接近する経路を取った。
続いて共に迫ってきたタスクに、ライフルの速射モードで行く手を阻むように数発。逆噴射で後退を始めたところで、逃げ道を一つ与えるようにさらに数発。
次の瞬間、タスクはRADに取り囲まれ、一斉射撃で呆気なく爆ぜた。やはり逃げ回る相手にはこの戦法に限る。
死角からマシンピストル2丁を持った敵機に狙われる攻撃端末は、腕部バルカンでフォローしてやる。
面食らっている間にRADがビームランプを向け終え、容赦なくビームを放った。敵は運命を悟ったようにされるがまま、四散した。
この3機を相手している間に、他のタスクは射撃より近接攻撃の方が速い距離までやって来ていた。
全機健在ののRADの内4基には
ブラスターライフルを完全にウェポンクリップに戻し、プラズマバトンを抜き放つ。
同じように高出力プラズマバトンを手に、ハーキュリーズに正面から挑みかかってきたタスクに、鍔競り合いで対応する。
プラズマバトンの出力だけは互角のようだが、直後相手の頭上からビームが雨のように降り注いだ。一歩間違えば自分に当たりかねない、RADによる超精密射撃だ。敵は頭から順に吹き飛んでいく。
一方、同じくプラズマバトンを振りかぶったタスクが、ハーキュリーズの背後へ急上昇をかけてきた。黄色い光が背中を袈裟懸けに切り裂く前に、直掩のRADが振り向いた。
まずバトンを持っていた腕を爆砕し、漏れ出した金属粒子の干渉爆発で、後ろに吹き飛ぶ敵機の両脚とコックピットへ正確にビームを撃ち込んだ。
この間に距離を詰めてきたタスクは、ハンドアックスを持っていた。確実に近接戦闘を挑むつもりだ。直掩のRADも繰り出し、全基で牽制に向かわせる。
予想通り、敵機はビーム攻撃を嫌ってか、不用意にハーキュリーズと距離を詰めてきた。こちらのプラズマバトンは一撃目で難なく相手の両腕を切り落とし、二撃目で胸部を刺し貫いた。
再びRADをチャージポートに戻す。残り8機。戦いを挑んだ僚機が悉く撃墜されて、かなり慎重になっているようだ。
後はまとめて片付けてしまおう。
シュタッヘルシュヴァインの残骸を一旦手放す。
エネルギーを限界まで充填したRADを、機体周囲に直掩として配置。
反動に備えてウィングを広げ、どの方向に流されてもスラスター噴射で対応できるようにする。
右手のブラスターライフルは速射モード。
両腕を前に突き出し、腕部30ミリ電磁バルカン砲を展開。
スクリーンモニター前方に映るすべてのタスクに、マルチロックオンを掛ける。
これでフィナーレだ。
ハイドラは両操縦桿のトリガーを同時に引いた。
その瞬間、ハーキュリーズから敵機群へ向けて、ビームと機銃弾によるすさまじい量の弾幕が放たれた。
ライフルとバルカン砲にRADによる継戦度外視のビーム連射を加えた、圧倒的な面制圧射撃の前に、宇宙用タスクが次々と犠牲になっていく。
――ビームにコックピットを撃ち抜かれ沈黙するタスク。機銃弾をまともに浴びて全身穴だらけになるタスク。RADのビームを回避しようとしてライフルのビームの犠牲になるタスク。逆にライフルを避けようとしてRADの網に掛かるタスク。偶然束ね撃ちの形になったビームで胴体が消滅するタスク。機銃弾で両手足を失いビームにとどめを刺されるタスク。背を向けたところをスラスターノズルから機銃弾が飛び込み、ワイズマン・リアクターの暴走で爆散するタスク――
ハーキュリーズの前方、着弾点を中心に真紅の爆炎が埋め尽くす。
煙と敵の残骸でスクリーンモニターの視界は閉ざされてしまったが、そんな状況だからこそ、コンソールモニターの平面レーダーに表示された一つの反応が戦域を離脱していくのを、ハイドラは見逃さなかった。
排熱ハッチがまだ開かれた状態だが、すぐに追撃する。
全エネルギーを消費し
その間にそれへとあるコマンドを組み込む。
そのままデブリと化したタスク群を突き抜ける形で敵の反応まで最短距離で向かうと、片足を失った宇宙用タスクが離脱を図っている最中だった。無論逃がす気はない。
ハイドラがそのタスクへ照準を合わせ、左の操縦桿で動きを入力する。ハーキュリーズはその入力に従い、忘れものだと言わんばかりに目標へ向けて手にしていた爆発物を投げつけた。
ハッキングで自爆装置を起動させられたシュタッヘルシュヴァインは、タスクに衝突した瞬間、ワイズマン・リアクターのオーバーロードにより大爆発を起こした。当然タスクも巻き込まれ、細切れに千切れ飛ぶ。
ワイズマン・リアクターは正しい手順を踏んでオーバーロードを起こした場合、青白い炎を伴って爆発を起こす。
その美しくさえ思える爆炎が尽きた時、ハイドラはバナール球型のスペースコロニーを、細部を捉えられる距離で確認した。
ついにここまでたどり着いた。
あとはあのコロニーに居るはずのジョナサン・モントレーと決着を付けるだけだ。
到着は派手に知らせなければ。
ハイドラはブラスターライフルをコロニーの球状の部分に向けた。
(つづく)
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