第12話 会いたくない出会い
「これは……かなーり損をしたような……遼州人はモテないんだから、こういうチャンスは……いや、アメリアさんが噛んでたってことはどうせろくなことにならないんだから……」
廊下から沈みつつある夕暮れが見える。
『特にカウラさんのファン達が……。怖いんだよなあ』
常に痛い視線を投げてくるカウラを神とあがめる三白眼の野郎共を思い出しながら自室に入った。
島田はまだ帰ってきてはいなかった。誠は着替えとタオルを持つとそのまま廊下を出た。
どうにも寂しい。
『やはり断らない方が……』
そう考えながらエレベータでロビーに降りる。
「神前曹長!」
ロビーで手を振るのは司法局実働部隊技術部の秘蔵っ子で技術部整備班で唯一の未成年者の西高志兵長だった。後ろでそれを小突いているのは、菰田主計曹長だった。いつものことながら威圧するような視線を誠に浴びせてくる。それぞれの手には手ぬぐいと着替えが握られていた。
「もう行ってきたんですか?露天風呂」
誠の言葉に西がニヤニヤ笑いながらうなづく。
「ここら辺は相当深く掘らなきゃ温泉なんて出ないのに……結構いい風呂だったぞ」
先ほどのかなめの貴賓室でのやり取りをまるで知らない菰田がそう言って笑っていた。
「島田さんは?」
「野暮なこと言っちゃだめですよ!きっとグリファン少尉と……」
西はそう言うとにんまりと笑う。
「餓鬼の癖につまらんことを言うな!」
西を取り押さえたのは菰田の取り巻きの整備班員である。西以外の五人の整備班員は整備班の中でも島田とはあまり反りの合わないメンツで、誠にとってはあまり関わりたくない連中だった。
『ヒンヌー教団』
彼等、菰田一派のことを司法局実働部隊の隊員達はこう呼んだ。
アメリア曰く『筋金入りの変態』と呼ばれる彼等は自らは『カウラ・ベルガー親衛隊』と名乗り、犯罪すれすれのストーキングを繰り返す過激なカウラファンである。
出来れば係わり合いになりたくないと思っている誠だが、経理の責任者の菰田に提出する書類が色々とある関係で逃げて回ることも出来なかった。今回の旅行でも、本来は菰田は管理部長代理として、休みが取れないところをパートの責任者の白石さんと言うオバサンに仕事を押し付けてやってきたほどのいかれた人物である。
『これでカウラさんと風呂に入っていたら……』
菰田達の視線が誠には本当に痛く感じる。
「どうしたんだ?」
いぶかしげに黙って突っ立っている誠の顔を菰田が覗き込んでくる。悟られたらすべてが終わる。その思いだけで慌てて誠は口を開く。
「なんでもないですよ!なんでも!じゃあ僕も風呂行こうかなあ……」
「そっちは駐車場だぞ」
ガチガチに緊張している誠を見る目がさらに疑いの色を帯びる。
「そうですか?仕方ないなあ……」
誠は逃げるようにして菰田達がやってきた露天風呂のほうに向かった。
日本庭園を抜けて正面に見える風情のある
ここもまた一流らしく落ち着いた木と竹で出来た壁面のかもし出す優雅なたたずまいを感じる脱衣所で服を脱ぎ、タオルを片手に風呂に向かった。
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