第9話:新たな出会い 2

 カフカの森に到着してから採取を開始したのだが、その間も夏希はボーっとしており、時折ガゼルを見つめては頬を押さえてじたばたしている。

 夏希の反応を見た明日香は何かにピンときたのか、ガゼルが索敵に向かっている間を見計らって彼女に声を掛けた。


「夏希ちゃん」

「なんですか、明日香さん!」

「うふふ、ご機嫌ね。……もしかして、ガゼルさんに惚れちゃったの?」


 夏希とガゼルは親と子ほどに歳が離れている。

 メガネが勝手に見せてしまったのだが、夏希は十六歳でガゼルが四六歳で二回り以上の歳の差があった。

 普通であれば考えられないと思ったかもしれないが、明日香は夏希の反応を見て確信を得ている。そして――


「……は、はい!」


 夏希の答えもまさにそれであり、明日香は驚きと共に応援したい気持ちが湧き上がっていた。


「夏希ちゃんって、年上好きなのね」

「と、年上好きと言いますか、イケおじ様が好きと言いますか」


 体格もあり、顏に傷を持ったワイルドな見た目。

 整った髭ではなく剃り残しがあるようなちょっとしただらしなさも、夏希にとってはポイントが高かった。


「でも、イケおじ様って言うならダルト騎士団長はどうかな?」

「ダルト様もイケおじ様です! だけど、ガゼル様の方がイケおじ度は高いですよ!」


 イケおじ度という言葉には首を傾げてしまいそうになったが、年齢という点で見れば確かにガゼルの方がおじさんなのだろう。

 だが、明日香には理解できない部分でもあり追及する事は止めにした。


「とりあえず、私は応援するからね、夏希ちゃん!」

「ありがとうございます!」


 ちょっとした恋愛トークが終了すると、夏希も気分が変わったのか採取に集中できるようになっていた。

 今日の調合に必要な量が確保できると、ガゼルが索敵から戻ってきた。


「……ガゼルさん。それはなんですか?」

「ん? 魔獣だが?」

「……すでに解体済み」

「魔獣も少なくてな。暇だったんで解体までしてきちまった!」


 護衛だろうにと思ったものの、こちらの安全は確保済みだったのだろうと思う事にした。

 何せ明日香にはメガネがある。

 周囲に魔獣がいない事は知っていただけではなく、離れた場所にいた魔獣をガゼルが仕留める瞬間もメガネを通して確認していたのだ。


「そのお肉、ギルドに提出するんですか?」

「いや、俺が食う。売ったところで大した金にならんからな。それなら、俺の腹に入れた方が効率的だ」

「そうだ! せっかくですし、一緒に休憩しましょう。夏希ちゃんと一緒に弁当も作って来ているんですよ?」


 ジジから借りてきた魔法鞄マジックバックから取り出したサンドイッチを夏希に二つ手渡すと、彼女は小走りでガゼルに近づいていく。


「どうぞ、ガゼルさん!」

「……なんだこりゃ?」

「サンドイッチです! パンに具材を挟んで包みをしているので、手が汚れていても包みを剥がしながら食べる事ができるんですよ!」

「はー、こんなもん、よく考えたなぁ。それに、具材を変えたら色々と作れそうだ」

「そうなんです! とっても美味しいですし、食べてみてください!」


 グイグイ迫る夏希に促されるようにして包みを剥がし、サンドイッチを口に運ぶ。


「……ほう……これは……うん、美味い!」

「よかったー!」

「なんだこりゃ、マジで美味いな。お嬢さん方は、毎日こんな美味いものを食べているのか?」

「ジジさんが料理上手なので、教えてもらっているんですよ」

「なるほどなー。……なあ、お嬢さん方」

「はい!」


 目の前で元気よく返事をする夏希に少々驚きつつ、ガゼルは続きを口にした。


「もしまた素材採取をするなら、日にちを教えてくれねぇか?」

「構いませんけど、どうしてですか?」

「これだけ美味い弁当が食べられるなら、また受けたいって思ったんだよ」

「本当ですか! 嬉しいです、ガゼルさん!」


 ガゼルが事情を知っているとはいえ、ここまでしてもらっていいのかと明日香は心配になったが、彼といる事でキャロラインやリザベラの成長にもつながるかと考えた。

 そして何より、イーライの成長にもつながるだろうと。


「基本は週に一回の採取なんですけど……夏希ちゃんが良ければ、二人で採取に行ってみる?」

「……えっ! ふ、二人でですか!?」

「おいおい、それはさすがにダメだろう。事情を知っているとはいえ、俺は男でお嬢さんは女だぞ? 悪い奴だったらどうするんだ?」

「でも、悪い奴がそんな質問しませんよね?」

「……いや、まあ、そうなんだが」


 頭をガリガリと掻きながら息を吐いたガゼルは、視線を明日香から夏希に向けた。


「そっちのお嬢さんはいいのか?」

「はい! 構いません!」

「即答かよ。……まあ、俺としては美味い弁当が食えるからいいんだがな。そうだ!」


 何かを思いついたのか、ガゼルは手に持っていた魔獣の肉を夏希の前に突き出すと、歳に似合わない満面の笑みを浮かべながらこう口にした。


「んじゃあよう! 次の弁当はこの肉を使ってくれ! 楽しみにしているからよ!」

「……は、はい! 頑張ります!」


 嬉しそうに肉を受け取った夏希の笑みは絶える事がなく、その姿を明日香は微笑ましく見つめていたのだった。

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