第29話:魔獣との遭遇 2

 冒険者の話はイーライと城下を散策している時に聞いていたが、実際に冒険者ギルドの建物をまじまじと目にするのは今回が初めてだった。

 石造りで二階建ての建物に、大柄な人でも余裕を持って通り抜けられる両開きの大きな扉があり、その上には冒険者ギルドのエンブレム――剣と杖が交差した後ろに盾――が彫られた看板が下げられている。

 冒険者ギルドの周囲を多くの冒険者が行き来しており、建物内も同様の光景が広がっている。


「依頼主用の窓口は一番奥になっていますので、行きましょうか」


 窓口は手前から順に受注窓口、素材買取り窓口、冒険者登録窓口、依頼主窓口となっている。

 二階にはギルド職員用の部屋があり、基本的に全ての用事は一階で済ませる事になる。


「お久しぶりです、リンスさん」

「ジジ様! お久しぶりです!」


 依頼主窓口に到着したジジは窓口に立っていた女性の受付嬢――リンスに声を掛けた。


「本日はいつものあれですか?」

「ほほほ。そうです、あれです」

「かしこまりました! でしたら……あ、少々お待ちください!」


 短いやり取りでジジの要件を察したリンスは建物内を見渡した後、断りを入れてカウンターを飛び出していく。

 しばらくして戻ってきたリンスは二人の女性冒険者を連れていた。

 一人は赤髪を跳ねさせている活発な印象の強い女性で、もう一人は腰まで伸びた青髪が印象的な落ち着いた雰囲気を持つ女性である。


「ねえねえ、リンスさん? 私たちに何か用事ですか?」

「もしかして、私たち何かしでかしましたか?」


 呼び出された理由を聞かされていないのか、女性冒険者は首を傾げながらついてきている。


「お待たせしました。こちら、依頼主のジジ様です。今回、薬草採取をするために護衛を探しているので、キャロラインさんとリザベラさんにぜひ受けてもらおうと思いまして」

「……うええええぇぇっ!?」

「あの、リンスさん! 私たち、まだ駆け出しの冒険者で、護衛依頼は初めてなんですが……」


 いきなり護衛依頼と言われて驚いた二人は声をあげ、リザベラは遠回しに無理だと口にする。

 しかしリンスはそんな事はお構いなしに話を進めてしまう。


「マゼリア近くの森への薬草採取ですし、ジジ様も駆け出し冒険者で問題ないと仰っています!」

「お二人がご迷惑でなければぜひともお願いしたいのですが……いかがでしょうか?」

「「……ちょ、ちょっと待ってください!」」


 リンスだけではなくジジからもお願いされた二人は後ろを向いて相談を始めると、しばらくして振り返るとキャロラインが口を開いた。


「あ、あの! その依頼、よろしくお願いします!」

「受けるからには、全力でやらせていただきます」

「ほほほ。よろしくお願いします。キャロラインさん、リザベラさん」


 いつもと変わらない微笑みを浮かべるジジに二人も照れ笑いを浮かべている。


「ところでジジ様、そちらのお二人は?」

「紹介がまだでしたな。女性の方が儂の店で働いてもらっているアスカさん。男性の方が……」

「アスカの友人のイーライだ」


 ジジがイーライの事をどのように紹介するべきか迷っていると、イーライ自らが口を開く。

 友人という立場が口にされると明日香は目をぱちくりさせていたが、騎士という身分を明かせば護衛を依頼する意味がなくなると理解して愛想笑いを浮かべた。


「そうでしたか。見たところ冒険者の方かと思いましたので、失礼いたしました」

「いや、自衛目的で鍛えているだけだからな。本職の護衛がいてくれるのは助かる」


 リンスの問い掛けに苦も無く受け答えしているイーライに驚きつつ、明日香はキャロラインとリザベラの方へ声を掛けた。


「初めまして、明日香といいます。採取の間の護衛、よろしくお願いしますね」

「はい! 頑張ろうね、リザちゃん!」

「う、うん。あの、一応、私は魔法師で、キャロちゃんは剣士です」

「お二人とも、よろしくお願いします。それでは早速、向かいましょうか」


 簡単に自己紹介を終えると、ジジの合図を受けて五人になった明日香たちは冒険者ギルドを後にしてマゼリアの門を潜り外に出たのだった。

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