第17話:好感度の謎 4
「ほほほ。お疲れ様でした、アスカさん」
「ジジさん。任せてくれてありがとうございます。あ、でも、作業は大丈夫でしたか?」
「もちろん、問題などありませんでしたよ」
「やった!」
ジジからお褒めの言葉を貰った明日香は胸の前で小さくガッツポーズをする。
「それでは、お昼にしましょうか」
「そうですね! 次の仕事へ……って、お昼ですか!?」
明日香の中では昼前の感覚で仕事をしていたのだが、実際には昼の時間を大きく回り太陽も傾き始めていた。
「す、すみません! あぁぁ、お店も開けなきゃ……って、お店!?」
「ほほほ。途中で問題ないと判断したので、儂が開けておきましたよ」
「……でも、店頭での仕事は?」
「今はお昼休憩ですよ」
「…………本当にすみませんでしたああああぁぁっ!!」
慌てて立ち上がった明日香は何度も頭を下げる。
それでもジジは全く気にする様子がなく、むしろ集中して仕事をしていた明日香を褒めた。
「いえいえ。集中して仕事に没頭できるのは素晴らし事だと思います。それだけやる気を持ってくれているのだと安心したくらいですよ」
「……ジジさ~ん!」
「お昼にしましょうか」
「は~い!」
涙目になりながら何度も頷き、明日香はジジに連れられてリビングへ向かったのだった。
食事を終えた二人は休憩明けのピークを乗り切ると、明日香のために早い時間で店を閉めた。
というのも、本来の目的である調合を教える時間を作ってくれたのだ。
「お店を閉めてもよかったんですか?」
「後進を育てるのも大事な仕事ですよ、アスカさん」
こう口にしているが、ジジも誰に対しても同じ対応をするわけではない。今回は明日香のやる気が大いにあると判断する事ができたから、店を閉めてでも教えようと決断していた。
そうとは知らない明日香は申し訳なさそうに何度も頭を下げており、その姿すらジジには感心する一因になっていた。
「それでは始めましょう。まずは素材の説明からです」
場所は調合部屋だが、すでに匂いは気にならなくなっていた。
「こちらが下級ポーションの素材です」
ジジと向かい合って座ると、間にある机には下級ポーションの素材が四つ並べられていく。
一番右にあるのがネフィラ草。傷薬にもなる薬草の一種。
右から二番目にあるのがドルブの実。毒が含まれた果実でそのままでは食べられない。
左から二番目にあるのが飲み水。これは飲むのに適した水質であれば問題ない。
一番左にあるのが魔力結晶。下級ポーションに必要な素材の中ではこれが比較的入手困難なものになるだろう。
「魔力結晶は、魔力溜まりがある場所で生まれると言われている触媒です」
「魔力溜まり、ですか?」
「えぇ。魔法によって放出された魔力は空気と混ざりあい漂っていると言われており、その空気が一所に留まり続ける事を魔力溜まり、そんな魔力が結晶化したものを魔力結晶と呼びます」
魔法に縁のない明日香が首を傾げると、ジジは丁寧に説明を始めた。
召喚当初の明日香なら丁寧な説明を受けても理解できなかっただろう。だが彼女はすぐにリヒトからこの世界の事を教えてもらっており、魔法や魔力についても基本的な事は習っていた。
「魔法かぁ。……私も使えるのかな?」
自分の手のひらに目を向けて魔力を見てみようと試みてみたが、それっぽいものすら見えない明日香はしばらくして小さく息を吐く。
その姿を見ていたジジは微笑みながら魔力は見えるものではないと口にした。
「空気が見えないように、魔力も見えるものではありません。まあ、火を出したり水を出したりする事で、別の形として目に見えるようにはなりますけどね」
「水を? ……それだったら、井戸水を使う必要もないって事ですか?」
「まあ、水魔法が使えればですね。儂は火魔法と光魔法しか使えませんので、毎朝井戸水を汲みに行っているのですよ」
これもリヒトから教えられている。人には適した属性というものがあり、適性のない魔法は使えなかったり、使えたとしても規模の小さなものしか使えない。
特に水魔法で出した水を飲み水や料理、調合に利用する場合は、その質が重要になってくる。
「アスカさんに水属性の適性があれば考えてもいいかもしれませんが、そうでなければ日常生活で使用する事はあまりオススメできませんよ」
そこまで口にすると、ジジは話が逸れたと口にして調合素材の説明に戻っていく。
下級ポーションを作る手順として、最初に行うのがネフィラ草を細かく刻む作業と、ドルブの実をすり潰す作業の二つ。それらを交ぜ合わせてさらにすり潰す。
完全に一つになったものを寸動鍋に移して飲み水を加え、煮立たせながら混ぜていく。
ボコボコを沸騰してきたら最後に魔力結晶を投入してさらに混ぜるのだが、この時に微量の魔力を注ぐ事が必要となる。
魔力が少なすぎると効果が薄く、多すぎても同様であり、さらに味が苦くなり飲めたものではなくなってしまうので注意が必要だ。
「えっ! ……魔力を注ぐって、どうやるんですか?」
「アスカさんは魔力を操作した事がないのですか?」
「……は、はい」
「そうですか。それは困りましたねぇ」
詳しい話を聞くと、魔力操作は子供が魔力を暴発させないようにと親が子供に教えるのが当たり前であり、明日香の場合は事情があれどもリヒトが教えているだろうとジジは考えていた。
稀に怒りに反応して魔力が体内で暴走して内から爆発を起こして身を滅ぼしたり、上手く魔力を放出できたとしてもその魔力が爆発して周囲に被害を与える事もあると聞き、明日香は顔を真っ青にさせてしまう。
「……ど、どどどど、どうしましょう、ジジさん!」
「この辺りをバーグマン様から聞いていないのですか?」
「うぅぅ、聞いていません。大事な事なのに!」
今度リヒトに会ったら文句の一つくらい言ってやろうと心に決めた明日香だったが、今はそのような事はどうでもよかった。
魔力操作、これができなければ調合師としてジジを助ける事ができず、自ずと道具屋で働く意味がなくなってしまうからだ。
「明日はイーライがここに来ると言っていましたね?」
「……イーライですか? 確か、そう言っていましたよ?」
「でしたら、イーライに魔力操作の訓練をお願いしたらどうですか?」
「え? でも、いいのかなぁ」
突然の提案に困惑する明日香だったが、ジジは笑いながらこうも口にした。
「護衛という事ですが、カウンターの裏で暇を持て余しているようですし、忙しい時間でなければ店頭も問題ありませんからね」
「……そ、それじゃあ、明日イーライにお願いしてみます」
「それがいいでしょうな。では、今日の調合はできなくてもその前段階まではできますし、ネフィラ草とドルブの実の下処理をやってみましょうか」
「よ、よろしくお願いします!」
若干の予定変更はあったものの、明日香は今日も充実した一日を過ごしたのだった。
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