9-30【トリラテッサ3】



◇トリラテッサ3◇


 【トリラテッサ】にある店、【マッサロ】は交易品を取り扱う店だ。


 軽く自己紹介を済ませ、そこの店主、たぬきの獣人……ペル・タリラーシャさんは、実にたぬき然とした性格をしていると俺は思った。

 この人は、貧乏人をよそおって安く高級品を仕入れしていたんだよ。

 基本的に高級品の取り扱いをしている店は、この店しか無い町であり、そうなれば必然的に売買はこの店で行われる。


 外観がボロボロなのは、そこに掛ける金がもったいないからか、それともボロの道具屋と見せるためなのかは定かではないが、俺から二万【ルービス】を儲けようとしたのは間違いだったな。


「で、いくら?」


「……合計金額、二十八万【ルービス】ですねぇ」


『三十五万です』


「三十五万だってよ」


「――うぐっ!!お、お兄さん、交易とかに詳しいのぉ……?」


 詳しくはないよ、値段だけを天の声から聞いてるだけさ。


『誰が天の声ですか』


「別に詳しくは。ただまぁ、俺も今は金が必要でね。常時なら少し見逃してもいいけど……そうもいかなくてね」


 ペルさんは買い取り品を大事そうに棚の下に下ろす。

 まだ売るって言ってねぇけど。


「非常時だと」


「そ、だから……そうだな、三十万でいいよ。後は情報を提供して欲しいかな」


「え!いいのぉー!?それで……何が聞きたい?何でも聞いてっ」


 目をキラキラさせて尻尾を振るペルさん。

 これだけのアイテムだ。他の町ならもっと値段変わるだろうし、そうなれば今より儲けられるだろう。

 でもこの人は、見る限り収集家だ……売ったりすんのか?


「食材が安くて多く買える店を聞きたい。後は野菜の種とか苗が買える場所も」


「あ、もしかして東の……数日前のあの火災?」


 やっぱり知ってるよな。


「そうです。そこの村の出身でね……食糧難なんですよ。ちなみにどれくらい知られてます?」


「んー、夜中に空が真っ赤でしたからねー。町の人には知れ渡ってると思いますよ。自分から進んで行く人はいないでしょうけど……そんじゃー三十万【ルービス】で、はいよっ」


 ガチャン――と棚に置かれたのは俺のとは違う麻袋。

 チャリンチャリンと音が鳴る。


「わぁー!すごいねミオにいちゃん!」


「だなぁ……」

(すぐ使うけどな)


 しかし気前よく出すじゃないかペルさん。

 マジで金には困ってない……なのに金額を誤魔化そうとするとは。

 恐るべしたぬきの血。


「それでお店だけどね」


「あ、はい」


「この町は川沿いにあるから、新鮮な川魚や甲殻類が美味しいんですけど……お店はちょっと微妙ですかね、味はいいんだけど、値段がねー」


 高いのか。

 しかもそうなると、量も問題だ。


「味はこの際、多少大味でもいいんですけど。とにかく量が欲しいんですよね」


 村人全員分だ……今日は様子見で、まずは二日分を買いたい。

 その後は近くまであの大馬車で来て、複数人で買いにこれればと思っている。

 問題は、鮮魚と言う点だ……長持ちする食品がいい。


「ならー……【オウパチ】かなぁ」


 お、おうぱち??

 凄い名前だな、この【マッサロ】もそうだが、ネーミングセンスが独特だ。


「そこなら安いんですか?」


「そうですねー。量は多いし値段も手ごろです……味はちょっと」


 なるほど、高級店と激安スーパーみたいなもんか。

 だけど今は、激安スーパー大感謝だ。

 一応俺も平民ですんでね。


 さっそく俺はリアと一緒にその【オウパチ】とか言う激安店に向かう事にした。

 きっとまた、この店【マッサロ】には来ることになりそうだから、ペルさんにはこちらからサービスとして、猿の亜獣のドロップ品をあげたのだった。

 よろしくだよ、ペル・タリラーシャさん。

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