8-66【赤い世界は燃える村2】



◇赤い世界は燃える村2◇


 その声は、小さかった。

 消え入りそうな、今にも消滅してしまいそうなほどの、そんな小さな声だった。

 それなのに、この場にいる人間は誰しもが、吸い込まれるようにその視線を向けた。

 それが当然のように、自動的にそう決められているかのように。


「ア、アイズさん……」


 村の北西部に住む、旅人……アイズ。

 それが村での共通認識だ。しかし……少なからず知っている。

 彼女が正真正銘の――女神であると。


「……遅くなったわ。認識阻害の魔法で、強制的に神力の流出を避けていたの」


 それは力を抑えるための、誰かに気付かれない為の魔法だ。

 前日からそれを行い、約一日。

 【女神アイズレーン】は、何をしていたのか。


「ルドルフ」


「え、あ……はい!」


 何故か。ルドルフはひざまずいた。

 ルドルフや多くの村人は、アイズをただの旅人だと思っている。

 しかし、その言葉に、声に、逆らえなかった。


 ルドルフと同じく、多くの村人がアイズに向けて頭を下げていた。

 誰も分かっていないであろう、その理由を。


「前の貴方あなたの家がある場所……現在わたくしが住んでいる場所に、村人全員を避難させなさい……直ぐによ」


「前の……で、ですがアイズさん、あそこはそれほど広くも、大人数が入れる空間もありません!そこまで行かずとも、集会所で!」


「……そこに地下があるわ。その場所を整備するのに時間が掛かったの。でも……この村の人間全員を避難させられるだけの空間は作った。だから急ぎなさい……命令よ、【女神アイズレーン】の名において」


 アイズの底知れない空気に、村人は気圧けおされる。

 その神々しいまでの身姿に、かもし出す雰囲気に。


「は――はい!皆聞いたな……今すぐ全員で、村の北西に移動だ!全員だぞ、誰一人残さず、全員だ!!」


 ぞろぞろと、行動を開始する村人。

 まるで洗脳されたかのように、アイズの一言で動き出した。


「……これが、本物なんですね……アイズさん」


「馬鹿ね。わたくしに成ろうとなんてするからよ……アイシア」


 弱るアイシアの頭を、頬を優しく撫で、アイズは微笑ほほえむ。

 その神々しい粒子を放つ身体が……透明になりながらも。


「……アイズさん……あたし」


「村人全員・・を助けるには、どうしても力を抑えて作業をしないといけなかった……でもそのせいで遅れたのも事実。だからこの村を作った責任として……けじめを付ける」


「だけど!このままでも……レインさんが!」


 その全員に、この場にいないレインは含まれていないのではないかと。

 アイシアは涙ながらに叫ぶ。


「――平気よ」


「え?」


 その優しい眼差しは、東を見ていた。

 東の国……【テスラアルモニア公国】方面を。

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