8-41【豊穣の村侵攻作戦2】



◇豊穣の村侵攻作戦2◇


 宿坊の外では、高らかに笑う女性……レフィル・ブリストラーダがいた。

 火が回る大きな建物に、崩れていく木造に。

 数は極少数だが、逃げ惑う一般客もいた。それを慌てて避難誘導をする【王国騎士団・セル】の姿に、笑いが込み上げて来ていたのだ。


「――あははははははははははははははははっ!」


「「「「「……」」」」」


 控える騎士たちは、【ブリストラーダ聖騎士団】の中でも強者。

 つまりは【奇跡きせき】の強化作用を何度も重ね、傀儡くぐつとなった聖女の玩具おもちゃだ。


「いい気味だわ。これで逃げ場はない……従うしかないの、やるしかないのよ?」


 レフィルは高笑いを終えた後、冷めたように後ろにいる一人の人間に声を向けた。


「……は、はい。聖女様……」


 泣きながらうつむき、その少女は激しく自分を責めた。

 この少女は、【王国騎士団・セル】の一人……名はカルカ。

 アレックスに憧れていた、貴族出身の騎士だった。


「いいでしょう?あなたにもおこぼれ……アレックスに抱かれたのだからねぇ」


「……う、うぅ……」


 それは悲願だった。

 夢想し、ふけるだけでしかなかった自分が、憧れの男性と一夜を共にしたという事実……だがその代償が、これだ。


「【王国騎士団・セル】の壊滅は……あたしの想定内なのよね。あのクソ女王の戦力は、見えない所から削っていくわ。事故にでもなんでも見せられるし、抵抗があったとでも言えばいいのだから」


 既に戦いは始まっている。

 それは聖女の中での大一番……女王シャーロットの駆逐くちく

 今回の村侵攻など、何の意図もない……ただの戦力低下を見越したものなのだ。


「あちこちうるさいようねぇ」


「は、はい……ここは既に帝国領ですし、疑問に思う兵もいるかと……」


「……【王国騎士団セルそうでしょうね。でもあたしの騎士たちは違う。なぁんにも考えない、考えられない。あなたも、ああはなりたくないのでしょう?」


「――は、はいっ……どうか、どうかお情けをっ!」


 怯え、聖女に懇願するカルカ。

 カルカは見たのだ、【奇跡きせき】が起こる瞬間を……地獄の始まりを。


「あはははっ!!そう、そういう顔が見たいのよ……あぁいいわぁ。その絶望を、あのクソ女王でも見てみたい」


 自分の胸を揉みしだき、レフィルは高揚させて目尻を下げた。

 そんなところに……炎に包まれる宿坊から戻る騎士たち。


「――任務完了しました、レフィル様」


 涼しい顔のまま、アレックスが戻る。

 後ろからもゾロゾロと、白い鎧の騎士。


「ご苦労様。戻りなさい……この後は直ぐに村に進むわ。準備して」


「かしこまりました」


 命令に一つの疑問も持たず、文字通り人形になったアレックスは、カルカに一目も置かず去っていく。


(アレックス団長……)


「うふふ……さぁカルカ、お前も準備なさい。あたしは……やることがあるからね。あは、あははははははっ!」


 嬉しそうに笑い、レフィルはテントの方へ。


「……どうすれば……」


 何も出来ない。

 したら自分も……同じ様にされると知っているから。

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