7-102【VSエルフの守護者2】



◇VSエルフの守護者2◇


 森の種族エルフの守護者と言うだけあり、ドラゴンの体色素は緑色だった。

 有り得ないほどの巨体は、先程までのこの室内には入りきらないと……二人共気付いていた。しかし、確認する余裕が無いのだ。

 現在は二人共に部屋中を逃げ回り、ドラゴンの様子を見ている。


 室内の変化を確認できない二人の代わりに、ウィズが。


『――室内の拡張を確認。壁面、床、天井てんじょう、全てが数倍以上に大きくなっています。どうやらこの部屋も、扉やドラゴンと同等の力で作られている模様』


「――分かってるわよっ!!」


 そんな事よりも、このドラゴンを倒せる術を教えて欲しいとミーティアは思う。

 しかしウィズは、非常に残念な事を言う。


『……ウィズは現在、ミーティアとの会話しか出来ないので無理です。能力【叡智ウィズダム】を使える訳ではないので、貴女あなたの視界と魔力の反応から送られてくる情報をもとに、ご主人様が学んだ知識を……』


「ちょっと!うるさいかもっ!!」


 雑談を出来る余裕もない。


「お嬢様!ドラゴンが動きますっ!……そっちに!!」


「私が狙いっ!?くっ……そうだ、氷の床にっ!!」


 右足から魔力を発生させて、床を凍らせる。

 ドラゴンは飛べるので意味はないが……狙いはそうではなく。


「――滑るっ!!」


 右足の魔力は氷の具足、その足裏に刃を作る。

 それを同じく左足にも纏った。


『さながらフィギュアスケートですね、ご主人様が見たらそう言うでしょう』


「私に言われても分からないわよっ!」


 スィ~ッと、床を滑り移動を開始するミーティア。

 スカートが邪魔でたくし上げている。


「お嬢様……お転婆てんばになられて……」


「――今ぁっ!?」


 その様子を見て何故か悲しむジルリーネ。

 思わずツッコミを入れてしまったが、そんな余裕は無い筈だ。


 ドラゴンはミーティアをにらむ。

 まるでジルリーネには興味が無いように。


「――どうしてわたしを見ないっ!まさか眼中に無いとは言わせないぞっ!!」


 ジルリーネは腰から、二本の剣を抜く。

 一本は新調した細剣、もう一本は愛剣のサーベルだ。

 左手には小型のバックラーを装着しており、その裏には数本のナイフが隠されている。


「ジルっ!!――【氷のアイシク】……ぅくっ!!」


 戦闘態勢に移るジルリーネをサポートしようと、ミーティアは氷のつぶてをぶつけようとしたが、ドラゴンが翼を羽ばたかせて、ミーティアは滑るバランスを崩した。


 グオォォォォォォォォン!!


「くっ!なんて圧力だ……っ!」


「これじゃあ、精神的にキツイわっ!」


 ドラゴンの咆哮ハウルには、精神を摩耗まもうさせる効力があった。

 手早く言えば、恐怖が襲う感じだろう。


「まだこっちをっ!!」


 ドラゴンは変わらずミーティアを見ている。

 まるで存在ごと無視をしているかのように、ジルリーネを見るつもりが無いようだった。


「ならばっ……――【魔炎弾マ・フレーマ】!!」


 交差した二本の剣から、炎の魔弾が発射される。

 ジルリーネの無詠唱魔法だ。

 威力は低いが、それでもヘイトを買うには充分と判断したのだ。


 ドォォン――


「よしっ」


 背中に直撃――しかし。


「ま、まさか……これでも!――お嬢様っ!!」


「――くっ」


 ドラゴンは反応しなかった。ジルリーネの攻撃すらも完全に無視を決め込み、執拗しつようにミーティアをとらえ、今度はその口を開き……腹内に燃える火炎をミーティアに向けて吐き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る