7-79.5【これからのEYE’S《アイズ》1】



◇これからのEYE’Sアイズ1◇


 アイシアが女神に成る……そんな馬鹿げた話の可能性が広がってしまった。

 きっとそれは、ミオも気が付いているはず。

 私だって、弟の幼馴染……そんな展開にはなって欲しくはないわよ。


「どうすれば防げる?」


「……防ぐ?アイシアが、あたしに成るのを?」


 言葉にされると、ひどく吐き気を覚える。

 アイシアが女神に成れば……今、目の前に居るこの女神が居なくなるという事。

 いや、逆だ……アイズが居なくなって初めて、次のアイズレーンが誕生するのだろう。


「質問を変えるわ。今の……貴女あなたは、どれだけ持つの?」


 命の期限が短い事はミオから聞いたけれど、具体的な事は分からないし、これから抑える事だって出来るかもしれない。


「――二年も無いんじゃないかしら」


 あっけらかんと、肉を咀嚼そしゃくしながら言い放つ女神アイズ

 なぜこうも、生に関して頓着とんちゃく無しに言い放てるのだろうか。

 女神だから?あきらめているから?


 ――バンッッ!!


「自分の事でしょうっ!!」


 耐えきれなかった。

 怒らない、冷静でいる、流されない……そう心がけていた筈の気持ちが、途切れた。


「おかしいものね。あんたは前世で、監察医……死に関わる仕事をしていた筈なのに、どうしてこうも人の死に敏感なのかしら」


「……」


「医療関係者は、そんな想いじゃやっていけないでしょ、普通は」


 そうかもしれない。上司にも何度も言われた事がある……向いていない。と。

 人の死を毎回気にして、どうして亡くなったのか、殺されたのか、原因は、死因は、動機は、家族は、怨恨えんこんか、痴情のもつれか……真実を求める仕事をしていて、心が摩耗まもうしない訳がなかった。


「あんた、優しすぎるのね」


「――っ」


 思った事なんて無かった。

 人の遺体にメスを入れ、傷をつけ、内臓を調べる……初めての解剖で吐いてしまい、ご遺体の前で失態をさらし……それ以来肉が食べられなくなった。

 慣れてしまえば食べられるようになると言われたけれど、私は一切食べられなかった。

 思い出してしまう……ご遺体の顔を、痛々しい身体を。

 生まれ変わっても、転生してもそれは変わらず……私は。


「……私は、死に慣れない。何度目にしても、何度経験しても……仕事上、経験を重ねてその場ではなくなったけれど……家に帰れば吐いてしまう。思い出して…知り合いに重ねてしまって」


 自分の近しい誰かが死んだら、きっと耐えられない。

 それでも監察医を続けたのは、負けん気とプライドがあったから。

 向いてなくても、時間が経てばおのずと後輩が出来る……そんな彼ら彼女らに、情けない姿は見せられなかった。


「あたしを重ねてるの?死を前にする……あたしと」


「……冗談でも自分で言わないで」


 ニヤリと笑うアイズは、やはりどこか違う。

 人間とは違う別のもの……神。

 そんな彼女の、長い長い人生を……私は知りたくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る