7-7【動けるって素晴らしい7】+用語13



◇動けるって素晴らしい7◇


 その日の夜。


 クラウとイリアが狩って来た牛を焼き、豪華な食事となった。

 火はジルリーネが魔法で起こし、調理はイリアが。

 クラウだけは肉を食べないので、自分で採って来たキノコを焼いて食す。


 夜にはミーティアもいつも通り、無理をして笑顔を見せている。

 ミオも両手を使えない状況で、誰かに食べさせられていた。


「はいミオどうぞ、あ~ん」


「あ~ん……あむ……うお!うんま!」


 ミーティアに牛ステーキの切り身を食べさせてもらうミオ。もはや慣れたものである。

 調味料も無く、焼いただけの質素なものだが。これはこれで旨みが出ていて美味かった。


「ねぇあんた・・・……調子乗ってない?」


 睨んでくる姉の視線にギクリと、ミオは肩を揺らした。

 怒った時は名前で呼ばない、他人のようになるクラウ。

 事実そう接しているのだろう……この瞬間だけは、みお星那せいなだ。


「な、何言ってんだよクラウ姉さん……手を使えないからって何でもかんでもやってくれ始めたのは、皆だろ?俺はもう頑張れば動かせんのにさ」


 そう言って両腕を挙げる。

 しかし……


「――って!」


 左手はともかく、右手に異常な痛みが。

 思わず左手で押さえてうずくまる。


「「「ミオっ!」」」


「ぐっ……う、ぐぐぐ……」


 うずくような痛みが、奥から湧いてくる。

 包帯の下の皮膚が、異常に熱を持った感覚だった。


「へ、へへ……俺の右手がうずくぜ……なーんて」


 引き攣った顔で笑う。

 そのネタが分かるかどうか、そう思ったミオだが。


「バカっ!!中二病じゃないんだからっ!」


 クラウが椅子から立ち上がり、隣に来ると。


「すぅーーー。行くわよ、【治癒光ヒール】っ!!」


 カッ――とした白い発光は、ミオの右手を包む。

 ピクピクと震える右手は、ゆっくりと落ち着いていき……そして。


「サンクス、姉さん……落ち着いたよ」


 傷が塞がった訳ではない。【破壊はかい】による浸食が、ほんの少し弱まっただけだ。それでも、随分と呼吸も落ち着く。


「無理しないで。私の治癒も……その傷には効かないんだから」


 口惜しそうに言うクラウ。

 そう言いながら、クラウはミオの背中を擦り……落ち着かせる。


「……ごめん」


「分かればよろしい、自重しなさい」


「「……」」


 無言で見守るのは、ミーティアとイリア。

 この場面、三ヶ月で何度もあった……しかしその度、二人は何も出来ないままだ。

 不甲斐なさにさいなまれる二人。

 その中には、多少のうらやましさもあるだろう……それは口にしないが、クラウとミオの空気が変わったと、そんな認識もある……春のおとずれだった。




 ――――――――――――――――――――――――――――――

・【澪から始まる】用語その13

 【破壊はかい】。正式名称――【destroyデストロイ】。

 ミオの能力の一つ、データそのものを崩壊させ全ての修復を不可能にさせる完全破壊能力。単純明快な名前とは裏腹に、その威力はすさまじく、物体に作用すれば【無限むげん】でも操作は不可能であり、人体に作直接用すれば、二度と再生しない。

 ミオは6章にてこの能力を使い、直接ではないものの、その影響を受けている。

 魔力を凝縮させてマイクロブラックホールを生み出す――技版の【破壊デストラクション】は、ブラックホールにて吸い込んだ物のデータも破壊する。

 その為、吸い込まれて傷付いたミオの右腕は、自然治癒が極端に遅くなり、回復の魔法も最小以下しか作用しない。

 直接触れていなかったのが幸いし、回復が遅く魔力の流れが悪くなっているだけで済んではいるが、それでも今は両腕が使い物にならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る