6-134【蛮行の王国15】



◇蛮行の王国15◇


 行動指針は決まった。私は極力、この騎士たちを無力化……周りに被害が出ない様に、ミーティアやイリアを守ることを主に置くとして。

 気落ちしていて戦力に数えられないミーティアはイリアが守る……実力はともかく、ミオが用意した武具は力になっているから、ある程度は戦えるはずだわ……問題は、相手が正規の騎士だという事で、大立ち回りが出来ない。


「さて、お話は終わったかな?」


「……ええ。わざわざ待っていてくれるだなんて、まるで正規の軍人ね」


「ふっ……当然だ。正規の騎士だからな」


 流石さすがに引っかからないか。

 それだけ口を滑らさないように仕込まれてる?それともこの男が、実力者だから?


「コーサル、お前もそろそろ起きろ」


「……ぐう……キツイ事言うじゃんか、ザルヴィネさんよー」


「な――まだ意識を!?」


 私が斬り伏せたチャラ男は、腹を押さえて立ち上がった。

 「いてて」と言いつつも、歯を見せて苦々しく笑う。


「下半身プルプルだぜ……チビ」


 その表情とは裏腹に、確かに小鹿のように震えていた。

 この男……想定以上に魔力も体力も、精神力もあるのね。


「なら、もう一度斬ってあげるわよ」


「おーっと勘弁だぜっ!――お前ら!!」


 チャラ男は右腕をかかげる。

 するとぞろぞろと、騎士たちがこぞって来る。

 まるでやからじゃない……こいつら、騎士ではないわよどう見ても。


「へへ……そこのお嬢さんを寄こせば済む話を、めんどくせー事させんなよまったく」


 その言葉に、ミーティアがビクッと震える。

 それにイリアも緊張したわね……力が入り過ぎよ。


「渡すわけないでしょ、このチャラ男」


「チャラ男……って俺のこと!?」


 どう見てもあんたでしょ。

 何よその髪、黒めの銀髪に赤いメッシュが無数に入ってる。

 髪色で扱いが左右される世界だったら、問答無用でチャラ男なんだから。


「お前意外にどこにいる、コーサル……指示は任せたぞ」


「ちょ――ひでぇ!まぁいいけど……ザルヴィネさんはあのチビを?」


「ああ。拘束する」


「言ってくれるわね……そう簡単に行く訳ないでしょっ」


 私を拘束……らえるって?ミーティアだけじゃ飽き足らず、私まで?

 ミオがさっき言ったように……やっぱり国防の強化が狙いって事かしら?

 だけど、そんな無理やりなやり方で戦力が強化できるほど甘くない事くらい、新しい王……じゃなくて女王は知らないの?


「各員散会して追い詰めろ。おいポノ」


「は、はい!!」


 大柄な男は部下たちに指示を出す。

 指示を任されていた筈のチャラ男は「え!俺の役目は!?」とツッコんでいた。


 そして、呼ばれたのは小柄な少年?……小さいから幼く見えるだけかもしれないけれど。


「お前は檻馬車を王都に戻せ、全区域だ。馬車の指揮はお前に任せる」


「は!!――了解であります!!」


 敬礼して、小さな男は走って行く。

 あの大きな馬車を戻すつもりか……だけど、止められないわね、私には。

 檻に入れられているのは、多くが若い男性冒険者……ミオが言うには、場所によっては確保されている人たちが違うらしいけど。


「二人共、捕まるんじゃないわよ……ミオが来るまでね」


「う、うん!」

「――はいっ!!」


「出来るだけ逃げる事を優先!反撃は折を見てっ!」


 正規の軍人だと言うのなら、正当防衛は通じないし公務執行妨害が適用される。

 異世界だから法の名前は違うかもしれないけれど、それだけは避けないと。


「はいっ、クラウ!」


「……うんっ」


 ミオの事……間に合うかどうかは期待させたくは無いけど、その言葉が一番効いたわね。

 ミーティアにも、あとイリアにもね。

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