6-112【選んだ結果5】



◇選んだ結果5◇


 ジルさんのその言葉の意味は、一体どういうものなのだろう。

 状況が俺たちにある……それは、好転と見るべきだろうけど。

 その風向きがどういうものなのか、それを聞かないとな。


「どういう事?」


 ミーティアも知らないような事なのか。

 そうだとしたら、【クロスヴァーデン商会】の最近の内情か?

 ミーティアも、最近は帰っていないだろうし……知らない事も増えていそうだ。


「……わたしは、旦那様にお嬢様の事をお話しました。お𠮟しかりを承知で……ですが、商会にはそんな時間がありませんでした。正確には、旦那様には……ですが」


「お父様、なにかあったの?」


「……最近、リードンセルク王がご逝去せいきょされた事はご存知ですね?」


「ええ」

「はい」


 当然知ってるさ。国の王様、トップだ。

 【ステラダ】でも話題になったし、悲しんだ人も大勢いる。

 俺は、まぁあの王女の父親……くらいの感情しか湧かなかったけどさ。


「王がご逝去せいきょなされた後、後継者は当然……シャーロット王女しかいない。この国も、時期に女王国と言われるだろう……と、そこはいい。問題は、その王女の政権だ」


 トップが変われば国も変わる。

 つまりはそう言う事なんだろうけど、不穏ふおんだ。


「王女の最初の政策は……資金の調達だった。それはつまり――」


「国一番の商会……ですか」


 俺の言葉に、ジルさんはうなずく。


「そうだ。秋の少し前から……旦那様は何度も【王都カルセダ】に呼び出されていてな、貴族会議にまで顔を出していたそうだ。それはもう……国の重要人物も同義だ」


 立場的には、かなりの出世だろうけど。

 貴族になるのか?クロスヴァーデン家……それはちょっとマズいかもだ。


「お忙しい中、旦那様はわたしの話を聞いてくださった……一応は」


「一応って……娘の話じゃないか、それを一応って」


 いきどおりを見せたのは俺だ。

 家族が離れるかもしれない、そんな状況を一応ってのが、俺には納得が出来ない。

 本末を質せば、俺がそうさせてはいるのだから……俺に何か言いたい事があってもおかしくは無いのに。


「それほどの事なのよ……からの命令という物はね。だから……話もなぁなぁで進んだ。だからわたしも、少し語気を強めて言ったさ……お嬢様の事を考えて欲しいと、このままでは、いずれクロスヴァーデンの家から離れてしまうと」


 ジルさんの中では、ミーティアはクロスヴァーデンの家にいた方がいいと……安定をのぞんでいるのかな。

 確かにそうすれば、未来と言う分からない場所での平和は守れるからな。

 王女の立場と従者の立場……両方から考えても、そういう結論なんだろ。


「……お父様は、なんて?」


 ミーティアの問いに、ジルさんは。


「……認めないと。ただそれだけ……それだけしか言ってくれませんでした」


「……そう」


 それじゃあ、子供ミーティアは反発するだけだ。

 ジルさんはそれが分かっているから、なんとかダンドルフ会長と話を付けたかったのだろう。

 そのまま……きっと今なんだ。


「ジルリーネ、私は……家には戻らないし、協力を求める事もしない。お父様にもお母様にも、悪いと思っているわ……親不孝だとも思ってる――でも」


 ミーティアは持っていた飲み物のカップをべコリとへこませて、目つきを変えた。


「ふ、ふふ……――お父様がその気なら、やってやるわ。私は……負けないんだから」


 メラメラと、燃ゆる心の灯火が。

 その決意した心に燃料を投下した……燃えている。

 ミーティアが、反発から来たその決意を、今までにないほどに燃やしていた。

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