6-90【転生者、その存在価値4】



◇転生者、その存在価値4◇


 私が、帝国でフドウくんと共闘?

 巫山戯ふざけた事を言う。

 何を根拠に……女神?予言?命令?


「ふざけてる」


「そんなことねぇよ。大真面目だ……だって母さんが」


 さっきから、女神が母さんが……って、五月蠅うるさいいわね。

 子供じゃないんだから、もっと自分の意見を持ちなさいよっ!!


「知ったことじゃないわ。そんな予言?かなんだか知らないし、興味もない。私が君と共闘……?なら、きっと不意打ちでも狙ってるんじゃないの?」


 未来に何が起こるかなんて、知ってたら面白くない。

 考えれば、確かにそんな能力を持った転生者がいても……転生者?

 予知だなんて、そんな超常の力を……フドウくんの母親が?


「うへぇ……ありそ~」


「……」


 失礼な事を本気にしていそうなフドウくんだったが、私の表情の変化に気付き。


「ん?どした……?」


 そう聞いてくる。


 私はなおも考える。可能性としては、どれくらいの確率なのだろう。

 転生者の子供として生まれる、転生者なんて。


「フドウくん……君のお母さん。もしかして――転生者なの?」


「……へぇ」


 その反応……どうやら的中してしまったみたいね。

 おどろいたように目を丸くするフドウくん。しかし、彼はその口元をゆがめてこう言う。


「これも、予言のうち……って言ったらどうする?」


「――なっ」


 私が今のように言う事も、知っていた?

 お母さんの予言……とやらで?

 正直言っておどろいた。まるで全てを見透かしているような、そんな言動。今までの馬鹿丸出しの行動も、全て計算されていたような、そんな気がしてしまって。


 そしてフドウくんは。


「――くっ、くく……かはははっ!」


 笑い出す、こらえ切れなかったかのように。

 なんなのよ、この男マジで……疲れる。


「噓だよ噓。そこまで万能じゃないだ、母さんの予言……【神告しんこく】はさぁ」


 直感で気付いた……【神告しんこく】。

 それがきっと能力の名だと。

 神の宣告……そんな所でしょうね。それなら納得も行くわ。


「なら、どうして私の言動や行動を……知っているかのように言うのよ。正直、腹立たしいわ」


「……【神告しんこく】は、しゅうしょう的な言葉でしか教えてくれないんだってさ」


抽象的ちゅうしょうてきね……君、本当に転生者なの?」


 いい加減訂正するのも疲れるわよ……


「でも、それで充分だったよ、おチビの場合は」


 私の訂正を無視した。


「どういう事?」


 私もこれ以上は変にツッコまないようにして問う。


「……『小さな天使、光のつるぎかかげて悪を斬る』――もう、ピーンと来たんだ。あの時おチビを見た時に……まさしくその通りだったからなっ」


「【ハバン洞穴】での時に?」


 フドウくんは嬉しそうに「ああ!」とうなずく。


「帝国にも少なからず、おチビと同じ様に【神告しんこく】の予言で集めた転生者がいるんだよ!だから、おチビも気付くべきだ……転生者の、存在価値にな」


 転生者の存在価値?

 そんなもの……個人の人生に何の関係があるのだろう。

 そんな私の考えは、甘いのだと……軽いのだと、自覚させるように、彼は。


「転生者はこの世界の勝者だ。大昔の戦争では出来なかった戦いが……俺たちには出来るんだからなっ!!前時代的な、古臭い戦いは無くなるんだよ!転生者と転生者が戦って決まるんだ!新しい時代がっ!!」


「……なに、を」


 その獰猛どうもうな笑みは、全てを信じた者の不敵な笑みだ。

 自分が正しいと、自分が勝利者だと……そんな歪んだ、正義なんだと……私は心から――恐怖を覚えたのだった。

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