6-9【地上の空気と二人の空気1】



◇地上の空気と二人の空気1◇


 少女が落としたものは……赤色の宝珠オーブだった。

 俺はその宝珠オーブつかみ、まじまじと見る。


「なんだ、これ?」


 見た目は綺麗な赤い球だ。

 軟式野球のボールのような感じで、大人が持つには小さいが……小さな女の子が持つには少し大きい感じだ。

 これを、この子は必死に持っていた……のか?


『――その球体の名称は……【オリジン・オーブ】です。ご主人様』


「【オリジン・オーブ】?」


 聞きなれない……と言うか初めて聞いたな。

 オリジンか、起源きげんって意味だったっけ?


『この世界の原初の精霊の力が封じらた……【神器アーティファクト】です』


神器アーティファクトか……【神器アーティファクト】!?」


 神の器と書いてアーティファクト。

 神が作りあげ、人間に与えたり神自身が使用していたりする……あの?

 アニメやゲームではよく出てくるアイテムではあるが、その実物がこの赤い・・球なのか?


 俺はじっくりとその球体、【オリジン・オーブ】を見る。

 本当に、ただの球体だ。

 防犯用のペイントボールと言われれば信じてしまいそうなほどの、それくらい普通に感じるな。


『内包されている魔力は本物です……世界に存在するとうわさされるのは、六属性の――火炎かえん水氷すいひょう空風くうふう地樹ちじゅ雷光らいこう闇黒あんこく……の六つが確認されていますが、そのオーブからは――』


「赤いし、火炎……炎の属性って事だろ」


『……はい』


 こんな小さな子が、どうしてそんなものを。

 それにしても、この世界の属性ややこしいな……黙って火・水・風・地・光・闇でよくないか?


『ウィズに言われましても』


「……分かってるよ。それより……ミーティア、来てるんだよな?」


『はい。この部屋の外で待機しているようです』


 もしかして、俺がここで何かしてる可能性を考えて、待っててくれてるんじゃ。

 とにかくこの子の事もあるし、ミーティアの話も聞いてみないとな。


 俺は小部屋から出る。

 そこには確かにミーティアが居た……そう、女の子のミーティアが。


「あれ……?」


「――あ、ミオ。大丈夫?」


 駆けよって来るミーティア。

 どうして【幻夢の腕輪】を解除してるんだろう。


「俺は大丈夫だよ。でも、この奥に小さな女の子がいたよ。怪我をしてるみたいでさ、意識を失ったみたいなんだ」


「え、大変っ……保護、してもらえるかしら」


 と、ミーティアは通路を見る。

 そこには、水路に落ちていた二人の男を捕える警備隊が……警備隊??


「……騎士・・?」


「あ~……あはは、うん」


 歯切れの悪いミーティア。

 その視線の先には、金髪の青年が居た。

 俺と同じような金髪、緑色の瞳……高身長。

 しかし、まとう雰囲気ふんいきは全然違くて、まるで好青年。

 別に俺が野蛮やばんって訳じゃないが、なんとなく……比べてしまいそうな、そんな異様な気配。


「……おや?終わったかな、ミーティアさん」


 その青年は俺とミーティアに気付き、こちらへ。

 くっ……声までイケてやがる。

 さわやかな風のような声に、耳がむずがゆい。


「あ、はい……アレックスさん」


 アレックス……って、ミーティアの知り合いなのか?

 アレックスと呼ばれた青年は、部下であろう二人の騎士に言う。


「そこの【常闇の者イーガス】の男たちは捕え、城に連れて行ってくれ」


 「「はっ!団長!」」と、二人の騎士は敬礼する。

 だ、団長……!?その腕章、【リードンセルク王国】の物だよな。

 じゃあこの人は、王国騎士団の……ジェイルの代わりの?


「あの、アレックスさん……奥に女の子がいるそうです。怪我をしているらしいので、保護をお願い出来ますか?」


「……それは大変ですね、行きましょうか」


 カツカツと具足グリープを鳴らして、騎士団長は奥の小部屋に。


「……なんだかなぁ」


「え?」


「あ、いや……なんでもないよ」


 どことなく変な気分だ。

 嫌な予感と言うかさ、そんな感覚を胸の奥にピクリと触れさせて、俺たちは奥へ進むのだった。

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