【冒険者学校】秋編

6-1【季節は移り】



◇季節は移り◇


 もう直ぐ十月に入る、そんな九月の終わり。

 亜獣――【アルキレシィ】との戦いから約二ヶ月がち、私たちは基本的な冒険者学生の日常へとシフトを始めていた。

 つまり、またいつも通り依頼のサポートをしているという事ね。


「――ラクサーヌっ!!」


「了解!……ウチが決めるっ!!」


 走り出す相棒……ピンク色の髪に尖った耳。

 だけどエルフのように長くはなく、上向きに伸びた形だ。

 手に持つのは、二振りの戦斧……大きいものと小さいもの、バトルアックスとハンドアックスの二刀流だ。


 今回の目的は、闇ギルド【常闇の者イーガス】構成員の捕縛ほばくだ。

 サポート依頼を出してくれたのは、二年生の次席。

 メガネが似合う美人さんの……レスティ・シュバークさん。


「待って、勝手に……!」


 命令されずとも、私たちは行動をする。

 レスティさんは観察とかが得意なそうだが、こういう時は動いた方がいい。

 本人も分かっているようだけれど、魔物とは違い相手は人だ。


「それじゃ間に合いません。相手は待ってくれませんよ!」


 私も動く、ラクサーヌの反対側に走って……もう一人の構成員に向けて【貫線光レイ】を放つ。無言で。


「――ぎゃっ!!」


 足の付け根を狙い撃たれ、身体をしびれさせて痙攣けいれんする男。

 さて、戦闘不能ね……最後の一人は、ラクサーヌが。


「――ぐはぁっ……!」


 バタリ――と鮮血を溢れさせ、倒れる大きな男。

 ちょっとラクサーヌ……それ。


 腕は千切れ、足はひしゃげていた。


「……こ、殺したの?」


 レスティさんが言う。

 私も思ったけど、ラクサーヌにそれを言ってもね。


「え?……だって、クラウが一人残したし、いいでしょ?」


 なにを言ってるの?とでも言いたそうに、ラクサーヌは返り血を拭いながら言う。


「……そんな、目的は捕縛ほばくだってば……」


 頭を抱えるレスティさん。


「まったく、話を聞かないから」


 ラクサーヌ・コンラッド……南国の島から来た、魔族の女性。

 その考えも行動も、普通の人間には測れない。

 私は、依頼の減点を覚悟した……仕方ないのよね、ラクサーヌの場合。


「……何が悪いのか分からないな。一人いるんだし、いいじゃない」


 情報を持っているのが、私が倒した方ならね。

 ラクサーヌが殺した人間の方がいい情報を持っていた可能性だってあるでしょうに。


「もうっ……はぁ。クラウさん、悪いけど……減点だからね」


「……ですよね」


 それはそう。当然だわ……この依頼は単純だけれど、殺しが任務じゃない。

 情報の回収、そして捕縛ほばく……それがメインなんだから。


「「……はぁ~」」


 私とレスティさんは、二人同時にため息をいた。

 なにも分かってなさそうなラクサーヌを見ながら、拠点きょてんに帰るのだった。

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