5-107【黒き獅子と半端な子5】



◇黒き獅子と半端な子5◇


 その瞬間は、あっという間だった。

 ユキナリの奴が振り下ろした黒い腕が壁に激突すると……一瞬にして衝撃が洞窟内に広がり、そして……崩壊したのだ。


「――てめぇぇぇぇ!!」


 まるで悪態あくたいをつくように、俺は崩壊する壁面におおわれていくユキナリの奴に対してそう叫ぶ。

 しかし――当のユキナリの奴は。


「かっははははは!じゃあなミオっち、早い者勝ちだって事よぉぉ!!」


 そう馬鹿みたいに笑いながら、去っていく。

 行く先は、確実に洞窟の最奥さいおう……目的は【アルキレシィ】だ。


「ミオ――壁が崩れてくるわっ!」


「分かってる!――【無限むげん】!!」


 そうだ、もうクラウ姉さんに能力を隠す必要なかった。

 だったら――全力でぇぇぇ!


 俺は崩壊する壁に手をかざして、能力を発動する。

 何故なぜか一切出てこなくなったウィズに頼ることが出来ないから、自分でいじ項目こうもくを選択して。


「か、壁が……ふさがれて……?」


 後ろにいたミーティアがそう言う。

 俺は、崩れてくる壁の土ではなく……その真下の地面を操作したんだ。

 強度と軟度をまるで金属のように強く設定し、形状は崩壊する箇所をおおえるほどの大きさに変える。


「うぇ……調整間違えたっ!」


 【叡智えいち】さんが担当していた時は、一瞬にも思えた【無限むげん】の操作が、やけにしんどく感じた。

 脳の処理……【叡智えいち】さんは偉大だと思い知ったぞ。


 だが……これで。


「お、治まったのか……?」


「そうみたいだな、ミオガキのおかげか」


 ロッド先輩とグレンのオッサンが言う。

 そして俺も、崩れかけた壁面を再度確認し……崩れが無いと判断して。


「あの野郎……奥に行きやがった」


「そうね、追わないと……フドウくん、初めから【アルキレシィ】が狙いだったみたいだし」


 クラウ姉さんは先に進もうと一歩踏み出し、俺の横を過ぎる瞬間。


「――やっぱり、今のが能力なのね……後で聞かせなさいよ。いいわね?」


 と、こっそりとつぶやいた。

 ゾッ――としたよ。


 時折見せるその氷のような表情かお……それが本性だろ、前世の。


「りょ、了解……――さ、さぁ!皆も行こうっ!あの馬鹿に先を越されるっ」


 気を取り直して、さっさとユキナリの奴を追おう。


「は、はい……この奥に、あの魔物が……」


「平気?イリア……」


「……」


 ミーティアの言葉に、無言でうなずくイリア。

 顔は真剣そのもの、強張っているとも言うが……恐怖のそれではない気もするな。


「よし、ならいい……サポートは俺たちがしっかりするし、イリアはその時・・・まで……気合温存だからな」


「……はい」


 よし、行こう……この奥に、【アルキレシィ】がいる。

 あの馬鹿が先行した以上、あいつとの戦いも視野に入れなければならないが……はぁ……憂鬱だよ、畜生ちくしょう

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