5-102【クラウ・スクルーズとして】



◇クラウ・スクルーズとして◇


 聞かなければならない。

 クラウ姉さんはクラウ・スクルーズとして、今俺と向き合っているんだよな?


「クラウ姉さんは、クラウ姉さんで……いいんだよね?」


 俺は、真っ直ぐに彼女を見る。

 俺が見ているのは……いったいどっちなんだろう。


 転生し、俺の姉として産まれたクラウなのか……それとも、クラウとして産まれる前の……日本のどこかの女性なのか。


 俺の問いに答える、クラウ姉さん。


「――クラウよ。それ以外でもなんでもない……この世界のクラウ・スクルーズ。私は……前世なんて関係無いと思ってる。ただ……」


「ただ……?」


 一瞬だけ、表情にかげりが入る。

 だが直ぐに顔を上げて、俺を見据みすえて……言う。


「私は、例えミオが転生者であっても……その考えを変えるつもりはないわ。あなたが産まれて十五年、一緒に居たんだから分かる。もしも前世の知識を利用して、悪だくみをするような馬鹿だったら……私が許してないわよ。ミオはミオ……私の弟、この世界の……私の新しい人生の、家族だから」


 心に光が差すようだった。

 少しでも、ネガティブな感情を抱いた自分が恥ずかしい。


「……」


「転生者である私に言われても、説得力はないかしら?私も……ずっと隠していたんだしね……お相子かしら」


 俺の顔を見て、笑う。

 その笑顔には、裏が無いと思った。

 俺が穿うがった発想で、一人でネガティブにとらえていただけなんだ……一人で怖がって、勝手に悪い方に想像して。


 この人は……ただ確証が欲しかっただけなんだ。

 俺が転生者であると証明出来れば、中身はどうでもいい……とまでは言わないだろうけど、少なくとも今は……それでいいと考えてくれてるんだ。

 場所も場所だし、時も時だからな。


「お相子……か。ははっ、そうかも知れないね。俺も……クラウ姉さんが転生者だって、ずっと昔から知ってた……だけど、それを追求するつもりはなかったし、探ったりしたりもしてない……だって、プライバシーの侵害もあるだろ?」


「ぷっ……!」


 吹き出すクラウ姉さん。


「そ、そうね。プライバシー侵害は駄目だめね、もう……いきなり日本みたいなこと言うから、笑っちゃったじゃない」


 まだ、この世界にはないルールだもんな。

 クラウ姉さんは俺の背中をバシバシと叩きながら言う。


「あはは……ごめん。でもさ、なんだか安心したよ」


「……そうね。私もよ、ミオ」


 きっと、今はこれでいいんだ。

 これが……俺とクラウ姉さんの始まり。


 おたがいが転生者であることを知った、この瞬間。

 これがきっかけでもいい、少しずつ……一歩一歩、進む。

 そうさ、これからも、ずっとな。


「じゃあ……アイズの事だけど」


「ええ……」


 う~ん、どこまで言えばいいだろうか。

 俺を転生させたのはアイズだけど、クラウ姉さんもそうなんだよな。

 それはアイズが言っていた事だし……でも。

 アイズが転生させた人物は二人……俺とこの人だけ……それはつまり、言えば全部知っている可能性もあるという事だ。

 アイズが、どこまでクラウ姉さんに話しているかにもよる……その結果如何いかによって、クラウ姉さんが転生する前に転生した俺の事を、聞いている可能性があるという事だ。


「アイズは、数あるうちの女神だよ……俺にとっては」


「……なるほど。私と同じね……イエシアスと同じだわ」


「……だね」


 同意見でなにより……これ以上は、おたがい中の人バレを気にしている感じだろうか。

 島国日本とは言え、広い世界だ。

 まさか知り合いではないだろうし……これから先も一緒にいるんだ、話す機会もあるだろう。


「じゃあ」


「そうね、まずは・・・納得」


 「まずは」を強調して言う。

 それつまり、今後もお話しましょうね……ということである。


「わ、分かった……言える限りの事は話す。約束するよ……でも」


「分かってるわ……それなら早いとこ、イリアの為に……」


「ああ――【アルキレシィ】を探そう」


 話しは続くはずだ。

 何ヶ月、何年……続いていく時間の中で、きっと――その思いは交わる。

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