5-68【父としてではなく】
◇父としてではなく◇
お父様の言葉……「アレックス君はどうだった?」という言葉に、私はナイフとフォークを置き、テーブルナプキンで口を軽く拭いて……言う。
「……とても優しく、思いやりのある方でしたよ」
と、答える……それはもう笑顔で。
「そうか。それは良かった」
良くはない――けれどむしろ、よくもまぁあそこまでの好青年を用意したものだと、お父様のその実行力に感心してしまいそうなくらいだった。
「アレックスさん……結婚乗り気なようですね。まるで、私がミオを振り向かせられないと、確信しているように……」
確信しているのは、お父様の方だろうけど。
「説明をした事は悪いと思ってはいるさ。だが、こちらにも都合がある……お前はクロスヴァーデン家の娘なのだ、【リードンセルク王国】最大の商人……【クロスヴァーデン商会】の……跡取りだということを自覚しろ」
その一人娘を嫁に出すって言ってるんじゃない。
跡取り娘だと言いたいなら、私に商会を
これではまるで、私の夫になった人に
「分かっています」
返事だけはする。
昔からそうだ……お母様が病弱で、
クロスヴァーデン家の為、商会の為、国の為……そんな事が嫌で、私は
そして出会った。
ミオという“運命の人”――私のヒーローであり、初恋の人。
「それならいい。だったら、ミオ君の事も……」
私の好意的と取れる言葉に、お父様は言ってはいけない事を言おうとした。
だからその前に制す。
「――それは聞けません。話が別です……お父様」
「ふむ……
分かっていない。
この人は……娘の気持ちなんてこれっぽちも考えていない。
昔から、私はこの人の道具なのだろう……父としてではなく、商人としての目線でしか私を見ていないんだ。
有能な人材のもとに私を嫁に出して、その相手に
「アレックスさんに文句なんてありません……でも、私にはミオと言う大切な男性がいます。それは、もう何年も言い続けています。それに、お父様はミオに協力をしているではないですか……」
そんな話、もう何度しただろうか……ミオが個人的に父に協力をお願いしに来た時、お父様だってミオの有能性を見抜いたはず。
だから、【豊穣の村アイズレーン】と【ステラダ】間の街道管理を受け入れたはず。
それなのに……なんでこんな事をするの?
「――確かにそうだな。彼の
「なら、
私は、強く叫んでしまった。
しかし、お父様は一切動じることなく……決定的な理由を
私には何一つ言い返せない、絶対的に
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