5-64【所詮小娘2】



所詮しょせん小娘2◇


 かれこれ十数分……涙を流しながら笑い続けたアレックスさんは突然、時間を気にするように、掛け時計を一瞬だけ見やると。

 急激に冷静になり、笑みも消える。


「……さて、そろそろいいかな。ふぅ……面白かった」


「え……えっと、アレックスさん?」


 急に雰囲気ふんいきを変えて……落ち着いたように言う。


「いえね、これで時間もかせげたでしょう?」


「――え。まさか……わざとあんな大袈裟おおげさな笑い方を?」


 それで十数分も笑い続けたの!?

 この人、なんでそんな事を?


「……」


 私は観察するように、アレックスさんを見る。

 凝視ぎょうしと言われれば、そうかもしれないけれど。


「いやいや、面白かったのは本当……って、そんなに見なくても、説明しますよ……安心してくださいミーティアさん」


「え。あっ!……す、すみません」


 笑って言うアレックスさんだけれど、多分あきれてる。

 でも、それはそれでいいのかも。

 馬鹿ばかな娘だと嫌われてしまえば、私の未来の選択肢も。


「私は、これでも騎士団の団長をつとめています。まだ数年ですが、ハッキリ言ってしまえば、忙しいんですよ」


「え、ええ……それは分かりますが」


 当然だろう……ジェイル・グランシャリオが騎士団長をクビになった際、後任が決まるのは早かった。

 掲示板に張り出されているのを目撃した程度だけど……それがこの人だとは。


 では何故なぜ、現在忙しいこの人が……こんな小娘わたしに会いに来たの?


「ミーティアさん……貴女あなたとの事を聞きおよんだのは、今から三ヶ月程前です。急な話でした……私もおどろきましたが、でも……それでいいと思ったんですよ」


 そんな簡単に、お見合いを受け入れたの?


「……それで、受け入れたのですか?」


「ええ……意中の人も、特にはいませんでしたしね……それに、騎士団の仕事が忙しくて、出会いは無いのですよ」


 苦笑いで答えるアレックスさん……意外だわ、モテそうなのに。


「意外ですか?」


「えっ……あ、すみません」


 読まれてた。


「いえ。問題ないですよ……よく、団員にも言われるのでね。ふふふ……」


 本当にさわやかな人だ。

 見た目の雰囲気ふんいきだけはミオによく似ている。

 でも何か、ミオには無いなにか……それを持っている気がする。


 でも……正直言って、私がそれにかれる要素はないとも思えた。


「それでもこの話を受けたのは……まぁ、時間をかけたくなかったんですよ。困った事に……父もダンドルフ殿も、勝手に話を進める事が好きなようで……とんとん拍子で決まっていましたからね。それこそ、断る時間なんてありませんでした」


「そう、なんですね。でもそれって、別に私を……好き――とかじゃ、ないですよね?」


 結婚なんて面倒臭めんどうくさいから、出来るうちに簡単に済ませてしまおう……と、私にはそういう風に取れた。

 そしてその答えは、アレックスさんがみずから答え合わせをしてくれる。


「――そうですね。本音を言えば、私は年上の女性が好みですから……年下の貴女あなたは、タイプではありません。素敵な女性だとは思いますけど」


「ハッキリ言い過ぎでは……?でも、そうなんですね……」


 そのアレックスさんの言葉に、ホッとした自分がいた。


「ふふふ、安心しましたか?……まぁ、それでもこの話を受け入れたのは……事務的に貴女あなたと結婚をして、楽をしようという魂胆こんたんなんですよ。何度も見合いをするのも、面倒臭めんどうくさいですしね」


 ものの見事に堕落的だらくてきな答えだった。


「……でもそれって、恋とか愛とかには興味きょうみがない、という事で……いいんですか?」


 まるで私には興味きょうみがない……それは別にいい。

 深い興味きょうみを待たれても、こちらがやりにくくなるだけだし。


「そうですね。今は騎士団の仕事が楽しいですし……だけど、父から持ってこられた話を無下にする訳にもいきません……まぁ貴族にはよくある話ですよ。大臣閣下ですしね……」


 と、アレックスさんは笑う。

 父親……ライグザール大臣閣下のお話しなら、確かに断れないのだろう。

 そうなのかも知れない。

 けれど……それを私に当てはめないで欲しかった。

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