5-50【進捗どう?】



進捗しんちょくどう?◇


 魔力切れのイリアを女子寮に送り届けて、「今日はもう休んどけ」と……ニヒルに言いつけて、俺はその足で【ステラダ】の街に出た。

 向かう先はアクセサリーショップ……【たかの眼】。

 熊の獣人……ガドランダ・モルドインが経営する店だ。


 今頃ミーティアも、実家に帰っている頃合いなのかな?

 あれ?それとも……ジルさんと待ち合わせだっけか?


 今朝がたの記憶をあやふやにしたまま、俺は【たかの眼】まで到着する。

 カランカラーンと鳴る鈴付きのドアを開けて……開口一番に。


「――進捗しんちょくどうっすか?」


「……ミ、ミオのあんちゃん……いきなりだなおい」


 工房と繋がっている店内では、熊のおっちゃんがゴーグルをかけて作業をしていた。

 今は……昨日売却した骨の研磨けんまかな?

 骨とは言っても、まるで銀のようにピカピカに光っていて……すげぇ綺麗だ。

 これは素人目には分からんな、区別がつかないよ。


「うっす、出来ました?」


「おいおい、出来る訳ないだろう……昨日の今日だぞ、まったく。今朝から始めた所だよ……出来上がりは……そうだな、五日くらいだな」


 ですよねー。


「五日……か」


「ん?なんか急ぐのか?」


 俺の微妙びみょうな返事に何かを感じたのか、熊のおっちゃんがゴーグルを外しながら言う。


「いや、別に急いではないんだけどさ……昨日の子がいただろ?」


「お?ああ……あのボロボロガントレットを買ったハーフエルフの嬢ちゃんか?」


 あ、やっぱり分かるんだな。

 獣人にもハーフの呪いがあるらしいし、もしかしたら思う所があるのかな。


 あとさ、売った本人がボロボロとか言うなや!

 それに買ったの俺だぞ!?


「そ、そうだよ。その子の為の装備なんだけどさ……」


「なぁるほどな。だから魔力関連の装備だったのか」


 俺の依頼の理由をさとって、おっちゃんは納得したようだ。

 やっぱり世界の共通認識か、ハーフが不遇ふぐうなのは。


「でもよぉ……悪ぃなミオのあんちゃん……今日は他にも作業があってよ、昨日あんだけ素材を貰ったのに」


 熊のおっちゃんは心底申し訳なさそうに言う。

 丸い獣耳がヘナっとしてて……可愛いんだが。

 いや、おっちゃんだけどさ。


「いやいや、無理言ったのは俺だし……急いでくれただけでも感謝してるよ」


 ゴーグルを外した熊のおっちゃんの目元は、クマが出来ていた……熊だけに。

 おっちゃんは商売してんだし、他の客の依頼もあるよな……当たり前だけどさ。

 物凄い人気店……って訳ではない店だけど、腕はいいと評判らしいし、無理を言っちまったかな。


「腕輪の骨組みは終わったんだがな……乾燥させている内に、組み込む宝石を選ぶところさ」


 そういう風に作るのか……深いな、異世界のアクセサリー。


『――素材が骨なので加工が独特なのでしょう。特殊な素材で加工をして、乾燥させて硬化させるのでしょうが……その硬さは金属にも負けはしない筈です。なにせ最高級の素材ですので』


「なるほど」


「ん?何がだ?」


「――あ、いや……す、凄いっすね~」


「??」


 【叡智えいち】さんへの返答を、普通に口に出してしまった。

 営業マンの相槌のようにうなずいて、熊のおっちゃんに笑みを向ける。

 俺も、もっと気を付けないとな……イリアのこと言えねぇや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る