5-41【無限と叡智2】



無限むげん叡智えいち2◇


 俺がこの世界に転生して……一番初めの能力――【無限むげん】。

 元々はそれ一つだと思っていたのだが、今や俺の中には五百ほどの能力と武器が存在しているらしい。


 何の手違いか、どこぞのポンコツ女神のやらかしによって……本来転生出来るはずの死者たちの分の転生の特典ギフトが、全部まとめて俺に乗っけられたって事らしい。

 つまり、現在新しく転生者が増える事はない……そういうことだ。

 クラウ姉さん……クラウ・スクルーズだけは、俺が死んだ後に転生したらしいが、運がよかった……いや、死んだ時点で運はよくないか。


 とにかく、クラウ姉さんが転生出来たのは、この世界で【クラウソラス】を所持していた人物が死んだから。らしい。

 そういうことだ……そんな理由で、俺は女神に狙われている。

 転生者が死ねば、その能力は回収されて……新たな転生者が産まれる事ができる。

 俺が死ぬだけで五百人分……転生者をサイクルさせられるんだ。


 能力の話に戻ろう……【無限むげん】、そのオブジェクト操作能力についてだ。

 操作できる項目こうもくは数えきれる物では無く、組み合わせはまさに無限……俺もどれほどの数があるか、正確に把握はあくしていない。

 戦闘面に適した数値を操作するだけでも、結構な数だからな。

 普段使いと言うか、日常生活で使用する時はそれほど頭も使わないから、疲れる事もないんだけどさ……戦闘となると話は別だ。


 脳内解説終了、俺は口にする。


「動きながら数値をいじるのがむずいんだよな、こうやって……指でメモリを動かすような感じで使う事が多いけど、ウィズならそれを一瞬でやってくれるって事だろ?」


 俺は空中でメモリを動かすように、スススとスライドさせる。

 マジでそんな感じなんだよな、【無限むげん】の使い方。

 ウィズが言うには、それを俺の代わりにやってくれる……って言うんだから。


『その通りです。能力は魔法ではありませんので、消費魔力の調節も出来ます。ご主人様は非常に効率が悪い使用をしておりました……具体的には、数値を通り越す。他の個所かしょを操作する。無駄な上掛けをする……などです』


「……ぐっ」


 俺は項垂うなだれる。

 自分の能力で、使用方法も分かっているとはいえ……実際に操作するのは俺の脳だ。

 戦闘中は考える事も多いし、失敗しない様に保険をかけるだろ。

 【叡智えいち】さんに言わせれば、それが無駄な行動と言いたいらしい。


「はぁ……分かってるよ。戦闘面に関して、俺は多分生きる事を優先して考えてる……だから不安は出来るだけ少なくしたいんだ、失敗して誰かが傷つくようなことをけたい……俺自身だけなら別にいいんだけどな」


 自己犠牲のつもりはないけどさ……俺はただ単に、事故が起こった際の責任を取りたくないんだと思う……最低だけどさ。


 誰かが傷ついて怖い思いをするよりなら、自分で被ったほうがマシだろ?

 しかも場合によっては、「お前のせいだ」……ってことだって充分考えられる。

 それが嫌なだけさ……保身だよ。


『――ですので、これからはウィズがサポートします。戦闘中は、ご主人様は【無限インフィニティ】を発動する地点を設定して、魔法に見せかけた名前を仰ってくれればいいだけです』


「え、それだけで発動できんのか?例えば……【石の槍ストーンスピア】!って言うだけで?」


『――はい。そのさいは魔力を使うだけです。面倒な手続きも操作も必要ありません、ご主人様は戦闘に集中してください。そうすれば――もっと強く、高みに到達できることでしょう』


「……」


 それは確かに、そうなんだろうけど……なんだろう、誰かの思惑を感じる。

 気のせいか?


 俺は保険をかける事を優先して、“圧倒的に勝つ”ということをしてこなかった。

 いわばチート能力の持ち腐れだよな。

 不安、恐怖、否定……そう言った負の感情が俺の思考を埋め尽くして、進展しなかったんだと思う。


 だから、俺も進まないとな……イリアを見習え。


「なら……ウィズ。手始めに見せてくれよ、お前の……【叡智えいち】の力を。【無限むげん】をどこまで高みに昇華させる事が出来るのかをさ」


 俺は、置いてあったガントレットに手を触れる。

 見せて貰うとしようか……【叡智えいち】さんの実力をさ。


『――了解しました』


「いいか?目的は……キルネイリア・ヴィタールの能力、【念動ねんどう】の衝撃に耐える装備の調整だ、対象はこの防具……ガントレットだ」


『お任せください。キルネイリア・ヴィタールの趣味嗜好しゅみしこうは、ここ数日で完全に把握はあくしました』


 そうかい、なら――始めようか。

 【無限むげん】と【叡智えいち】の……複合能力を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る