5-6【二人の生活】



◇二人の生活◇


 ミーティア・クロスヴァーデンイコールトレイダ・スタイニー。

 聞けば、ロッド先輩まで知っていたらしいぞ。


 あの人の場合、イリアの事が絡んで自力で調べ上げたらしいけど、もしかしたら他の生徒や先輩たちも、怪しんでいる人はいるんじゃないかな。


 だから、ハッキリさせないと駄目だめかもしれない。

 俺がうだうだ黙認していたら、クラウ姉さんのようにするどい人間に……いずれ暴露のような形でさらし上げられてしまう。


 それだけはさせられない。

 ミーティア・クロスヴァーデンという……この国の商業をになうお嬢様の為には。


『ミーティアがトレイダとして男子寮にいる……クラウ姉さんはそれを言いに来たんじゃないの?』


『……うん。まぁ、そうね』


『うん……』


 クラウ姉さんがトレイダをミーティアだって見抜いた事は流石さすがだ。

 俺は見抜けなかったし、他の生徒も基本的には誤魔化ごまかせてはいるんだろう。


 実際、冒険者学校の生徒は自分の事で手一杯だからな。

 ライセンス取得の為に、全員必死だ……他の生徒に気が回らないのさ。

 だけど、知られてしまえばそうもいかないんだ。


『俺も思ってはいたんだよ……気持ちは、その……すっごい嬉しいけどさ、やっぱりここは男子寮だし……何があるか分からないだろ?』


『そう――その通りね』


『……はい』


 俺の言葉にうなずく姉さんと、急にちぢこまるミーティア。

 反省はつたわるし、まぁバレてはいないんだからいいとも言える。

 なんだか学校側も知ってるみたいだしな……どんな力が働いているか分かったもんじゃないが。


『だから、女子寮に入るとか……家から通うとか、色々他にも出来るんじゃないかな?』


『……ミオは、私といるの……嫌?』


 ぐっ……そ、そうじゃない。


『違うって。ミーティア……分かってて言ってるだろ』


 こんな時に俺を試すんじゃない。

 そんな可愛い仕草しても駄目だめな物は駄目だめだから。


『うん……分かってはいるわ、でも……そうもいかない理由もあって』


 その理由が言えないんだろうから、俺が困るんだよなぁ。


『それじゃあ、クラウ姉さんは?俺たちがどうすればいいとか、ある?』


 クラウ姉さんの考えなら簡単だ。

 今すぐに女子寮に移れ――絶対そう言うだろう。


 クラウ姉さんは一呼吸置いて。


『そうね……別にこのままでもいいんじゃない?』


『だろぅ……――は?』


 ちょ……なんて言ったこの人?


『何よその顔。いいでしょ別に……私が何か言ったって、意味は無いのっ』


 そっぽを向いて、ミーティアがここにいてもいいと言うクラウ姉さん。

 あーこの人、絶対何か知ってるやつだわ。


『……そ、そう来るとは思わなかったよ』


 これ、ミーティアは知ってたな……二人はもう示し合わせて来てたんだ。

 もう、後は俺を言いくるめるだけ……敵わないよなぁ、まったく。


『――でも、条件は沢山あるわ』


『え』


 ミーティアがおどろく。知らないけど……みたいなリアクションじゃん。

 クラウ姉さん……そうでもしないと許しません。って事なのか?


『じゃあ聞かせてよ、その条件』


 そしてその条件が……俺の忍耐力を更に苦しめる事になるんだ。

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