4-50【ナスタール森林地帯6】



◇ナスタール森林地帯6◇


 【ナスタール森林地帯】中間あたりで、ドーム状になっている(はずの)土の壁の中、俺とトレイダは【ファングタイガー】と向き合う。


「……マジで小さいなっ!これが虎だって言うんなら、動物園だったらうったえられるぞっ!!」


 そんな小さなタイガーに、俺は右手の平を向ける。

 魔力を流し込み、手の平から――赤い粒子。


「――【火炎弾ファイアブレット】!!」


 能力――【煉華れんげ】による、炎の攻撃だ。

 森の中なので威力は最小にとどめ、発射する。

 目的は、あいつを草木の方から移動させる事だ。


 【ファングタイガー】は見事にジャンプして、【火炎弾ファイアブレット】を回避する。

 ピョイーン――と。


 【火炎弾ファイアブレット】は草むらの直前の地面に着弾し、小さく爆発。

 畜生ちくしょう……やっぱりウサギじゃないかコイツ!


「――ミオっ!左からもくるよっ!」


「了解だっ!」


 【火炎弾ファイアブレット】をけた個体と、おそらくレイナ先輩の方から逃げて来たと思われる数体がやって来た。

 高所にいるトレイダの指示がありがたいな。


「――【カラドボルグ】っ!!」


 俺の声に呼応こおうして、具現化する金色の大剣。

 一振りで決められるその剣を、俺は構える。


「――ええええっ!ミ、ミオ!どんどん来るよぉっ!!」


「大丈夫だっ……どれだけこよ……う、とおおおおおっ!!来過ぎだろ!!何体いるんだよ!?」


 俺の目の前に現れたのは、何匹もの【ファングタイガー】は重なって大きく見せてきた、巨大な【ファングタイガー】だった。

 これってあれだろ?魚がやるやつ。

 群泳ぐんえいってやつだ……泳いではないけどさ。


「確かにデ、デカいけどさ……ああなるほど。これは虎だわ」


 何体の【ファングタイガー】が集まっただろうか。

 大きく見せるその手法は、正解だった。

 この集合体になったものを虎だと言われれば、そりゃあ納得だよ。


「……あはははははっ!!」


 奥の草むらからはレイナ先輩のウハウハな声が聞こえる。

 まぁ、楽勝なんだろうね……なら、俺だってやるしかないっ!


「――ミオっ!来るよっ!」


 分かってるさ!けど……どうしたらいいこれ?

 集まってるなら、それこそ分散させるか?

 でも、それだと多勢になっちまうしな。


「……くそっ、どうすんだよ俺!」


 【無限むげん】で木々の耐火性たいかせいを上げて、【煉華れんげ】をぶっ放すか、それとも……巨大な穴を掘って落下させるか。


「――!うおっと!……あぶねぇっ」


 一匹の【ファングタイガー】が、俺目掛けて牙をむいた。

 俺は横っ飛びでけるが……だぁくそっ!周りにも【ファングタイガー】があふれて来てて、集中出来ねぇよ!


 しかし、そこで思い付いた。

 まだ試していない――能力だ。


「――そうか、よしっ!!これで行ってみよう!」


 俺はいきおい良く駆け出す……自分が作った土の壁に、背を預ける為に。

 トレイダが「えええ!ミオ!?」とおどろいていた。

 あれ、もしかして逃げたように見えたかな?


「……よし、ついてこい!虎ウサギ!!」


 ありえないほどの視線を向けてくる【ファングタイガー】の集団。

 更には合体して巨大虎になった魔物の影が、俺を追ってくる。


 まとまっても動けんのかよ、器用だな!!


「【無限むげん】が集中できなくて使えない状況でも、やれることはあるんだ!」


 能力――【無限むげん】は確かに強力だ。

 俺の使い方も魔力も、まだまだだ。

 こうやって多方面から来られたら、集中できなくて発動できない事も多々ある。


 そんな時の為に……他にも能力を使っていかないとな!!

 いくぞ、お披露目ひろめの時だ――【破壊はかい】!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る