4-46【ナスタール森林地帯2】



◇ナスタール森林地帯2◇


 歩いて数時間、俺たちはキャンプ場に到着した。

 そのキャンプ場は、普段から冒険者や冒険者学校の生徒たちが使うのだろう。

 小綺麗にされていて、魔法の道具も色々とそろっており、昔の村よりも充実していた。


「……だ、大丈夫か?トレイダ」


 本来なら、もっと早く辿たどり着く想定だったのだが。

 予定を大幅に遅れたんだ……原因はトレイダ、ミーティアの体力だった。


「……平気だよ……ごめんミオ、レイナ先輩も……すみません」


「謝るなって。仕方ないよ、初めての実習なんだしさ」


「そ~だよ。これも考えてはいたからさ、気にしなくてい~よ、トレイダくん」


「はい……すみません」


 ほらな、レイナ先輩も元からそういうつもりだったんだ。

 俺たち一年は、はなから戦力ではないんだよ。

 あくまでも二年生のサポート、そして……審査対象なんだろう。


「……ふんふ~ん、ふ~んふん♪」


 レイナ先輩は、切り株椅子に座りながら何かをしるしている。

 まぁ俺の予想だと……一年生が使えるかどうか、今後二年生になれるかの審査だと思うけど。


(もう始まってんのか……進級の為の審査って)


 まさか、初日からチェックが入るとはなぁ。

 きっと、新入生はどこも同じなんだろうけど。

 クラウ姉さんも、ユキナリ・フドウの奴も……依頼サポートをしている新入生はきっと、審査を受けてるんだろう。


「食事はどうしますか?」


「……任せるよ~」


 いやまさか、そこも審査対象なのか?

 疑心暗鬼ぎしんあんきになる俺に、トレイダは。


「僕がやるよ……ミオは料理できないでしょ」


 お湯を入れるくらいなら出来ますけど。

 あと卵をかけれます。


「だけどさ……トレイダ、平気か?」


「大丈夫だよ。僕も……足は引っ張りたくないから、もう引っ張ってるけどね……」


 自嘲じちょう気味に笑いながら、トレイダは鞄をあさる。

 【ラビッタ・ファクトリー】以外の商店で買った食材だ。

 日数は掛けるつもりはないから、少数だけど。


「すまん。頼むよ……」


 俺も、トレイダの心配ばかりはしてられないな。

 俺がトレイダを補助すれば、それだけトレイダの評価が下がるのかもしれないし。

 個人的な手助けはしにくい。

 自分でやるしかないんだ……それが、審査だ。





 トレイダが作ってくれた食事を終え、三人でテントの中だ。

 結論から言えば、料理は審査には関係なかった……俺の杞憂きゆうだったよ。

 そして現在は夜、魔物除けのアイテムを起動させて外に置いてあるから、注意を払っておけば安心して寝られる。

 でもってテントの中では、明日の相談だ。


「ここを早朝に出れば、昼までには森に着くよ~。そこで【ファングタイガー】を何体か倒して、証拠しょうこの素材を持ち帰れば……依頼完了だよ」


「素材か……」


 想像の中の【ファングタイガー】は、物凄いデカい牙の虎だった。

 直訳過ぎる発想だけど、それしかないよなぁ?

 サーベルタイガーに近いんだろうな、きっと。


「よっし。それじゃあ寝よ~!」


 レイナ先輩は、テント内のど真ん中に寝転ぶ。


「えっと……俺たちはどうすれば?」


 テントは一つだ。ど真ん中を陣取られたら、俺とトレイダは何処どこで寝れば?

 まさか、レイナ先輩の隣なんて言いませんよね?

 つーか、なんで女一人(一応)なのにど真ん中に行ったんだこの先輩。


「どうって……ここで寝なよ?まさか~、変な事するつもり?」


「――しないですよ。見張りはいいんですか?」


 冗談でもやめてください。

 隣からの視線が痛いです。


「ちぇっ――他の冒険者や学校の生徒もいるからね。誰かがやってるから大丈夫だよ~」


 「ちぇっ」て。やめてくれ。


「こりゃ、先輩の隣で寝るしかなさそうだな。トレイダ」


「う、うん。そうだね……」


 レイナ先輩はもう寝袋にくるまってしまっている。

 四月とは言え、まだ寒いからな。

 安心して眠れると言うし、そこまでの配慮はいらないという事か。


 俺とトレイダは、そうしてレイナ先輩の両隣に並んで眠る。

 初日の夜は、こうしてあっという間に過ぎて行ったのだった。

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