3-52【皆で朝食を3】



◇皆で朝食を3◇


 落ち着こう。

 まずは状況の確認だ……地べたに無様に組伏されるのは、アイズ。

 でもってその上に神の如く座り込むのが、クラウ姉さんだ。


「――ど、どういう事なのこの状況?……クラウ姉さん。その人は、お客様だよ?」


 先手を打たれていた場合、俺の転生者バレが心配だ。

 だが、このポンコツだって馬鹿じゃ……いや馬鹿か。


「――た、助けてぇぇぇぇ!」


 涙目……じゃなくて号泣で俺に助けを求めるアイズ。


「ミオ、この女が見えるの?」


 やっぱりだ。

 クラウ姉さんは、何も知らないまま俺の部屋に来て、アイズを女神だと分かったんだ。

 そして状況を把握はあくしないまま、女神を下敷きにすると言うね。

 なんともクラウ姉さんらしいよ。


「見えるってどういう事だい?父さんも母さんも、レイン姉さんも……皆見えてるよ?変な事を言うんだね」


「――え、ああ……うん。少し寝ぼけてて……」


 取りあえずさ、腕を解放してあげようぜ?

 完全に決まってるからね。腕固め。


「いだいぃぃぃ!」


「ほ、ほら姉さん。この人も泣いちゃってるから」


「あぁうん……仕方ないか」


 なぁ、俺が外にいる間に何があったんだよ!?


「――食事がもうすぐ出来るよ。だからお客さんを呼びに来たんだけど……まさかクラウ姉さんがいるとは思わなかったよ」


 しかも組み伏せて腕を固めて、その上に座っているとは。


「……そう、ありがと。じゃ――」


 ん?ぼそりとアイズに何か言ったな、クラウ姉さん。

 そしてアイズをにらみながら部屋を出ていく。いや怖えって。


「……はぁぁ、何があったんですか?」


「いきなり襲われたぁ……痛い、人間の身体、もろいよぉ」


 昨日地面に突っ込んだ時点で気付けよ。

 でも絶対にお前が悪い。そんな気だけはするよ。

 クラウ姉さんも、まさか俺の部屋に女神が居るとは思わなかったんだろうな。


「――なぁ、姉さんに何言われた?」


「――後で話があるってさ。第一声で一瞬で気付かれたわ、凄いわね」


 声は綺麗だし、印象に残るもんな。

 見た目も、まぁ綺麗だけど……しゃべらなければ――あ、コイツ……矛盾むじゅんしてんじゃん。


「――くっ……ふふっ」


 あーダメだ。急にコイツが可哀想かわいそうに思えて来た。

 せっかくの超美声。見た目も超美人。

 だけどしゃべるとボロが出る。

 利点である美声を出せば、耳が幸せな綺麗な声、だけどポンコツがバレるって。

 せっかくの美貌びぼうと美声、そしてポンコツが……殺し合ってるんだ。


「な、なによぉ……なに笑ってんのよっ!」


「いや、悪い。なんか、お前がおもし――かわいく見えてな」


「今、面白いって言おうとしたでしょ!?分かんだかんね!」


「はははっ……ほら、いいから食事にしますよ。話も聞かせてもらわないといけないんですからね」


 ほんの少し、ほんの少しだけな。

 この女神の良さが分かったよ。

 ポンコツで間抜けだけど、可哀想かわいそうな奴だ。

 それが――案外、悪くないポンコツだって、思い始めるくらいにはさ。

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