3-35【結局、作業どころではない】



◇結局、作業どころではない◇


 すっげぇぇぇ……なんだあの技。いや魔法か?

 鏡で出来た鳥籠とりかごのような、そんなおりに閉じ込められたジェイルに、浮いた剣の破片に光線が無数に跳ね返って……命中、したのか?


 まぶしくて見えなかったんだけど。


「クラウ姉さんが、勝ったのかな?」


 隣のジルさんに問い掛ける。


「――どうかな、ジェイルは影に逃げただろうし……魔法の途中でクラウの魔力も尽き掛けていたから、全部が当たったとは思えない」


 あ。やっぱり?


 だよな……ジェイルの真下には、自分の影があるんだ。

 その対策をしなかった時点で、けられるよ。

 どんなに強力でもさ。


 クラウ姉さんも……気付けたはずなんだけどな、何度も使われてたんだし。

 まぁ、クラウ姉さんはそうとう頭に来てるのが見えたし……余裕なかったかな。


「……きゅ~……」


「――あ」


 バタン――!


 後ろに倒れた。

 完全に目が回ってたな、今。


「よし、終わりだな……クラウを運ぼう。まぁ、予想通り魔力が無くなっただけだろうから、安心していいさ」


 ジルさんが、そう言いながら歩き出した。

 だけど、ジルさんやっぱり……ジェイルの心配はしてないな。


「わ、分かりました……ミーティアも、手伝ってくれるかい?」


「え、ええ……!勿論もちろんっ」


 倒れているクラウ姉さんは、完全に目が回っていた。

 なんて顔してんのよ……このまま行ったら白目になりそうだな。

 かわいそうなので、早いとこ運ぼうか。


「……よっと」


 軽い。マジで軽いんだよなこの人。

 コハクに追いつかれそうな程の身長に、胸がないからその分――おっと、手に力が入った。


 俺はクラウ姉さんをお姫様抱っこしているのだが。

 ん?……ミーティアから視線が。

 何だろうその視線……?


 もしかして……うらやましいのかな?


「家のドア開けるね……?」


 ズゥゥゥゥゥン……


 く、暗い。

 ミーティアも意外と分かりやすいなぁ。


「……あ。所で、ジルさん」


「ん?どうした……?」


 隣にいるジルさんに疑問を聞く。


「ジェイルさん……どこ行ったんです?」


 攻撃をけたって言うけど、一向に出てこないんだが。


「……ん、ああ。あそこだな」


 小さく返事をして、ジルさんは後方を指差した。

 そこは、資材を運んできた荷馬車……その影に。


「――ぶぅっ!!」


 ジェイルがいた。

 ぶっ倒れてたよ……目を回して。


 クラウ姉さんと同じだ。

 てことは、全部はけられなかったのか……クラウ姉さんの攻撃を。

 魔法で防いで、魔力が尽きてそこの影から出て来たんだ。


「……い、いいんですか?」


「はっはっはっ。平気だ、クラウよりは軽症だろう……」


 気を失ってるだけならいいけどさ……ところで。

 皆、今日の目的を完全に忘れてるよな?


 言ってみ?今日の仕事内容。

 そうだよ……ミーティアとジルさんの家……建てんだろ?


 俺の【無限むげん】でさ……はぁ~。

 結局……作業には一切手を着けられず、あっという間に夜になるのだった。

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