2-8【クラウ姉さんの本気1】



◇クラウ姉さんの本気1◇


 どうする……まさか相手が軍人だとは思わなかった。

 正規の軍人だとしたら、俺の素人剣技がかなう訳がない。

 姉さんだって、流石さすがにきついだろう。


「――ミオ。あの奴隷どれいたちを助けて、盗賊……じゃなくて兵士は私が全部・・やる」


「ぜっ……」


 全部って……十七人だぞ!?自信過剰だって!

 正規軍なら、俺たちの何十倍も経験がある。

 きっと訓練だって並じゃないはずだ。


 かたや俺たちは農家の息子と娘だぞ。

 どうにかできるレベルじゃない……と、俺は思っているんだが。


「大丈夫。全員斬る……」


 いいよな。転生特典ギフトが武器の人は。

 え?選ばなかったのは俺?……そうでした。

 確か……【カラドボルグ】だっけな。

 今更、選べばよかったとかは言わないけどさ、状況によっては思うよな。


「姉さん……」


 俺は真剣に姉を見る。

 心配なのは、勿論もちろんクラウ姉さんだ。

 当たり前だろ?転生者であっても……女の子。もし些細ささいなミスでクラウ姉さんに何かがあったら、俺は立ち直れないぞ。


「……そんな顔しないの。平気よ、私も……鬱憤うっぷんが溜まってるのよね」


 だからってさ、行うのは命のやり取りだぞ。

 俺が心配性なだけなのか?それとも、クラウ姉さんがズレてんのか?


 いや……きっとどっちもだ。

 だったら、それにならってやるしかない!!


「――分かった。あの奴隷どれいたちは僕が助ける……だから、あいつらをお願い!」


「――オッケー。任せて」





 パチパチ――と弾ける焚火たきびの前で、三人の奴隷どれいは暖を取る。


「な、なぁ……」

「……なによ?」

「やめた方がいいですよ。勝手に話したら……ひどい目に遭うかもしれません」


 【リードンセルク王国】に敗北した、小国【テゲル】。

 彼ら敗残兵……総勢十七名は、【リードンセルク王国】の町から三人の若者をさらった。

 三人はまったく関係の無い間柄であり、年齢もバラバラだ。

 兵士たちが逃げる為、それだけの為に奴隷どれいにされたのだ。


 三人はコソコソとして、酒を飲んでいる兵士に気付かれない様に話をする。


「逃げられるかなぁ……俺たち」

「……はぁ……またそれなの?もういいわよ。逃げられるなら、もうとっくに逃げてるわ」


「……」


 弱気な男に無関心な女。

 しかし、かがやきを失っていないひとみで兵士たちをにらむ少女が一人、隙を見つけて逃げ出してやろうと思考をめぐらせていた……そんな時だった。

 暗闇に、一瞬だけ……まばゆい光が天に向かって走ったのだ。


「……ひか……り?」


 その光とともに、兵士たちの焚火たきびが、全て……一斉に消えたのだ。

 そして……それに気づいた兵士たちもさわぎ出している。


「な、何が起きたの?」

「さ、さぁ……でも、これって!」

「チャンスですよ……これで街に、【ステラダ】に帰れるっ!」


 何が起きたかは分からないが、確かにこれは絶好のチャンスだ。

 混乱に乗じて、助けを求めればいい。

 そうして奴隷どれいたちもまた、行動を移すのだった……

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