プロローグ2-2【だらしのない女神】



◇だらしのない女神◇


 死んだんだ。私……殺されたんだろうね、きっと。


「あの女っ……武邑たけむらくんを殺した犯人っ……!」


 途切れたと思った意識が覚醒すると、そこは知らない場所だった。


 ここは、いったいどこなのだろう。

 まだ帰れるなら、戻って警察に……いや、無理よね。

 三途さんずの川?天国?それにしては簡素かんそね……っていうか何もない?

 白い箱の中身のようだった。


『――おっはよ~ございま~すっ!!』


「……誰?」


 なんだろう、この朝の情報番組のような挨拶あいさつ

 ムカつく。


 私の目の前に現れたのは、柔らかな光を放つ球体だった。


『やっと起きたわね~。どう、気分は?』


 最悪に決まってるでしょ?死んだのよ?

 しかも……絞殺こうさつだ。

 最悪も最悪。雨が降っていたから、まだマシなレベルだ。


『あぁ~全部出ちゃうんだっけ?人間って』


「――い、言わないで!!」


 きっとあの場で見つけられた私は、穴と言う穴から垂れ流し状態だ。

 想像もしたくない。


『でもさぁ、数奇すうきな運命よね~あんたも』


 謎の声に、私はキレそうだった。

 勝手な事を言ってくれる……と、意外とガチでキレそうだったわ。

 でも、この場に居ないと分かっていたからこそ、抑えられた。


「その声……あなたはどこの誰で、どこから出しているの?」


『ひっみつ~~』


 ――イラっ!!


『――ってのは冗談で……あなたは殺されました。だから、あなたを転生してあげましょう。そう、私は女神――【女神アイズレーン】です』


 何この茶番……って言うか、絶対に何か読んでるわよね?

 定型文でしょ、それ。


『ち、違うし~、ヒューヒューっヒュー……』


 それ口笛のつもり?出来てないけど、不器用なの?


『と、とにかぁく!あなたは死んだのよ。殺されたの!』


 ――知ってるわよ。でも、転生……ってことは、生まれ変われるって事よね。


『そう、第二の人生ね!文字通り。でも……残念だけど、選べる能力が一個しかありません』


「なにそれ、選ばせる気がないじゃない」


『いや~、ちょっと失敗しちゃって……じゃなくって』


 いや遅いわよ。失敗って言っちゃってるじゃない。


『今さっき、一人の転生者が死んだのよね。その能力が戻って来たので……それしかないんだ~。でも安心して、特別にレベルを引きがせてあげるから』


 レベル?引きがせる?まるでゲームのような専門用語は分からないけれど……転生者が死んだって事は、それだけの数の転生者が、その世界にいるって言う事?


『そういう事~、まぁでもいい事もあるよ』


 いい事?死んだって事をり替えられるほどのいい事?


『そ、それはその人の受け取り方次第しだいかな~』


 ねぇ、あからさまにキョドってない?

 大丈夫なの?この……えっとアイス……クリーム?


『――アイズレーンだってば!!きぃぃぃっ!何なのよ、あんたもその前の男もっ!!私のこの神々しい名前を間違うわむわ!』


 神々しい?ちょっと何を言ってるのか分からないわ。


『あっそうですか~、じゃあいいです~だ……』


 ガサゴソ……ガサゴソ、ガサゴソ。

 ガサガサガサガサ!ゴトッ――!ボトボトボト!


『あぎゃあああああああ!落ちたぁぁぁぁぁ!!痛い!!踏んだんだけどぉぉぉぉ!!』


 ……ねぇ。何か言って欲しい?

 この音って……この目の前にある球体から出てるのよね?


 聞こえる音が、完全に汚部屋なんですけど。


『失礼ね!!物が多いだけよ!汚くなんかないわっ!!あっ痛ぁぁぁぁぁぁい!!』


 汚部屋の住人はみんなそう言うわ。

 何故なぜなら……私は人の事を言えないから。


『――あ、あった!!これこれ』


 ああ、何か探してたの?

 仕事をしているなら、初めから用意しておきなさいよ。


『はい、目の前に送ったわ』


 え、この白い光?

 私はおもむろにそれをつかむ。

 不思議ふしぎと怪しいとは思えなかったのよね。


 つかんだ光は浸透しんとうしていき、私の身体に馴染んでいくようにして消えて行った。


「ん?……これが、能力?何ともないけれど」


『武器よ。光剣――【クラウソラス】……魔法の剣なんだから、感謝しなさい!しかも前回使用者のレベルを引きいでの超お得!特別なんだからねっ!』


 いや、これしかなかったんでしょ?感謝のしようがないわよ。


『う……うぅ……分かってた』


 ああ、分かってたんだ。

 何この女神。本当に女神なのかしら。

 声は綺麗だけれど、どことなく幼いし、なんだか駄目だめっぽい。


『でも、これで会えるでしょ……?』


「会える?」


 誰に?


『あなたが死ぬ直前に……思った人間によ』


 私が、死ぬ直前に思った人間……?


「それって……まさか」


 思ったのは、同級生……武邑たけむらみおの事だった。

 女神がそんな意味深なことを言うなんて……まさか。


「あの人……彼も、転生しているの?」


『――そうね。あなたの直前に……まぁ先輩になるわね』


「そう」


 そうなんだ……なら。


「なら……同じ世界に転生させて」


『もち。そのつもりだったし……でも、探すのは自分でね?』


 分かってるわ。元から頼るつもりもないし、だらしのない人は嫌いなの。


『ね、ねぇ……なんだかとげがない?』


 とげなんてないわ。だって本心だから。


『……そ、そう。まぁ……新しい人生を楽しみなよ。赤ちゃんからだけど』


「――は、はぁ?……赤ちゃん?」


『そ、みんなそうだから……ってか、あの男と同じ反応するじゃん!!はいでは、行ってらっしゃい!!』


 ちょっ……聞いてない!

 この!!駄女神!!汚女神!!


『――うるっさあぁぁぁぁい!!さっさと行けぇぇぇぇ!!』


 そうして、私は【女神アイズレーン】によって生まれ変わる。


 とある村に、クラウ・スクルーズとして生を受ける。

 目的は、同級生……武邑たけむらみおともう一度会って、どうして殺されてしまったのか、何故なぜあのような結末になってしまったのかを、聞く為に……

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