1-75【これが俺のファーストステップ2】



◇これが俺のファーストステップ2◇


 油断したよ此畜生こんちくしょうっ!

 クラウ姉さんの戦いに見惚みほれてしまって、隣が見えてなかった。

 俺の馬鹿野郎ばかやろうっ!!


 盗賊が盗賊らしくしてんじゃねぇよ!!

 人質とか卑怯ひきょうだろ!……って、俺は何を言ってんだろうな。


「……ミオ!」


 聞こえてるよ、うん。聞こえてる。

 背後から掛けられるクラウ姉さんの声は、俺の耳にバッチリ聞こえているさ。

 ……そして案外冷静にもなれた。あんがとよ、クラウ姉さん。


 先ほど盗賊親分に言われた通り、俺は持っていたナイフを遠くに投げた。

 わざとらしく見えるように、思いっ切り投げた。


「こ、これで……いいですか?」


 そして両手を上げて、何もない事をアピールする。

 まるで刑事物のドラマかなんかだな。盗賊に通じるかは分かんねぇけど。


「よーし、そのままこっちに来い……交換してやる」


 そうだろうな。

 俺の知ってる展開なら、交換する振りをして両方を人質にするつもりなんだろ?

 汚ねぇよな、盗賊さんよぉ。


 俺はゆっくりと歩き、クラウ姉さんの位置を確かめる。


(よし、距離もバッチリ……クラウ姉さんに掛かってるからな、頼むぞ)

 

 クラウ姉さんの光の剣が伸びて、しかも貫通するなら、まだ何とかなるはずなんだ。

 全部が全部クラウ姉さん頼りで、なんとも情けねぇ限りだけどさ。


「来ました、ガルスを離して……くださ――」


 ほらな。手が伸びて。

 きっと俺を捕まえ――


 ドスンッ――!!


「――ぐがっ!!……あ、うぁっ」


 な、何が起きた?一瞬で、景色が回転した?

 あれ……?痛ってぇ……腹が、めちゃくちゃ痛てぇよ。


「ミ、ミオぉぉ!」

「ミオ!!このっ!!」


「――おっと嬢ちゃん……近付くなって言ったろ?俺の靴には隠し刃が付いてる。このガキの頭ブッ刺すくらいなぁ、なんでもないんだぜぇ?」


 靴……?頭……?

 ガキって俺だよな、俺。くそ、そうか……この腹の痛み。

 胃の中が逆流しそうなこの感じ。


 腹パンじゃねぇか、ふざけやがって……黙って人質に取れよっ!


「ごほっ……げほっ……いっ、てぇな」


 景色が回転したのは、その場で一回転して倒れたって事か。

 マジかよ。この盗賊親分、あの巨体で十歳の子供を本気マジで殴ったのかよ。

 下手すりゃ死んじゃうよ?


「このっ……クソったれぇ……」


 俺の言葉は非常に小さかった。

 クラウ姉さんには聞こえていないだろう。

 だが、そりゃあ盗賊親分には聞こえるわな。


「このクソガキっ、大人を舐めたクソガキは、痛い目を見ねぇとなぁぁぁぁ!!」


 あぁ……そうだよな。俺もそう思うよ。

 俺に盗賊親分の顔は見えない。見えるのはその振りかぶった足だけだ。


 何だっけ?靴になんか仕込んでんだっけ?

 そっか……そうか……俺、また死ぬのか。


「――や、やめなさい!!やめてぇぇ!!」


 クラウ姉さんの叫びが聞こえる。

 ごめんな、クラウ姉さん……転生した俺の家族になってくれて……嬉しかったよ。


 ザシュッ――!!

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