1-61【問題はここから】



◇問題はここから◇


 両親に閉じ込められてしまった……子供を大切に思う親の心に、幼い心では太刀打たちうちできるわけもなく、俺とクラウ姉さん、そしてついでにレイン姉さんまで、子供部屋に入れられてしまった。


 ちなみに末っ子のコハクは、常にレギンが抱いていたよ。甘えん坊さんなんだ……もう六歳だけどさ。


 さて……問題はここからだな。

 ハッキリ言って、この子供部屋を脱するのは簡単だ。

 なにせボロ家だ、隙間すきまも沢山あるし、唯一ゆいいつの窓も建付たてつけが悪い。

 無理矢理出ようとすれば、多分難無なんなく出ることは出来るだろう。


「――父さんっ!開けてよ!!父さんっ!」


 俺は扉を叩いて、わざとらしくアピールする。

 そして直ぐに扉に耳を当てて澄ませる。


 よし……ぼそぼそとだけど聞こえる。

 多分、ガルスの母親に謝罪してるんだ……協力できなくて申し訳ないと。

 私たちも子供を守らねばならない、と。


 ごもっともだ、ごもっともだよ父さん。

 だけどさ、それじゃ駄目だめなんだよ。

 盗賊が近くにいる以上、村で大人しくしてても無意味だ。

 黙ってたって、その内盗賊は村に来る。

 だから隠れてたって、盗賊が見過ごすことはないんだ。


「――ミオ」


 おっと、クラウ姉さんに呼ばれている。


「なに?クラウ姉さん……」


「今の状況、ミオが一番分かってるみたいだね。だから……」


「うん。分かってるよ……行こうっ」


 こうなりゃ強行だ。

 閉じ込められたって、こんなボロ家……抜け出すことは簡単だ。

 事実、実は何度も自室から抜け出している。

 今まではこんな緊迫きんぱくした状況じゃなかったけどさ。

 しかし、俺とクラウ姉さんの考えに、一人理解を示さない人物もいる。


「――ま、まって!!二人共何を言ってるの……?助けたいのはお姉ちゃんも同じだけど……あ、危ない真似をするって言うのなら、お姉ちゃんはここを通しません!」


 レ、レイン姉さん……そこ・・に立ってるって事は、俺の抜け道バレてるんだな。

 俺は屋根裏から抜け出していたんだ。レイン姉さんは、その真下で両腕を広げて立っていた。バレっバレかよ……恥ずかしい。


「レイン姉さん……そこをどいてくれない?」


「――嫌よっ。クラウもミオも、父さんの言う通りに大人しくしてて!きっと、大人たちが解決してくれるからっ!」


 分かるよ。気持ちは分かるさ。

 でも、俺とクラウ姉さんは知ってるんだ。

 このくらいの時代設定のファンタジーな世界の事情を、きっとレイン姉さんや父さん……いや、この村の誰よりも知ってる。


「お姉ちゃん。ミオの言う通りよ……どいて。お姉ちゃんは黙って家に居ればいい……それに、さっきは同意してくれたでしょ?」


「そ、それは……でも、駄目だめっ!嫌だって言ってるでしょっ!?」


 クラウ姉さんの言い方だと、レイン姉さんの気持ちを逆撫さかなでしちゃわないか?

 こういう人には、真摯しんしに向き合った方がいいって。

 クラウ姉さんも言ったけど、さっきは同意してくれたんだ……聞く耳持たない人じゃない、レイン姉さんなら分かってくれるよ。


 だから俺は、レイン姉さんに話を聞いて貰う為、彼女の正面に立つのだ……

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