1-45【これはキッカケに過ぎない事象】



◇これはキッカケに過ぎない事象じしょう


 家に着くころには、【女神イエシアス】の声が聞こえなくなっていた。

 気付いたらいなくなるとかさ……自由過ぎない?


 そんな女神に関りがあるらしいクラウお姉ちゃんも、帰る頃には普段の寡黙かもくな幼女に戻った……演技を再開したんだろうな。

 ま、それは俺も同じだが。


 でも、今後は注意も要るな……スクルーズ家、次女クラウが俺と同じ転生者……って事は、身バレしちゃいかんという事だ。

 だって、ミオの中身は三十過ぎの魔法使いのおっさんだぜ?ただ生まれ変わって人生やり直してるだけじゃないんだ。


 俺は俺の……武邑たけむらみおの自我のまま、ミオ・スクルーズになってるんだからな……バレたくないんだよ、情けなくも死んだ……前世の事をさ。




 家に着いたのは夕方だった。

 もうしていた野菜も仕舞しまわれて、ママンもオヤジ殿も、レインお姉ちゃんも家の中にいた。


「あらあら……クラウお姉ちゃんに甘えちゃって、仲いいわね~」


「……うん」


 そんな事あまり言うなってママン。

 恥ずかしいだろ?あと、罪悪感ざいあくかんが産まれちゃうからさ。


「え~クラウずるい。ほら、こっちにおいで?」


 レインお姉ちゃんが何かに対抗して、俺を抱っこしようと手を伸ばす。

 が、しかし、クラウお姉ちゃんは離さなかった。


「……だめ」


「え、なんでぇ?」


 そりゃあレインお姉ちゃんもそんな顔にもなるよな。

 何て言うか、よく見る絵文字のキョトンとした顔だよ。


「……」


 クラウお姉ちゃんは俺をギュッと抱きかかえて、意地でも離さんと結界を張るのだった。


「――あ、クラウ~!!」


 こうして、本日は終了だ。

 後は家族みんなで飯を食って、姉弟仲良く眠るだけだ。





 眠っている。

 でも、意識ははっきりしてる。いろいろ考えてるよ、考えさせられてる。


 昨日、今日はいろいろあったからな。

 クラウお姉ちゃんの事、女神の事。

 そして自分の事……考えはきないよ。


 特に、転生者の事を考えてた。


 転生者は数多くいる。その言葉が、俺の心を強く揺さぶっているんだ。

 こんなド田舎に転生してさ、赤ちゃんからやり直し中の俺だけど、もう三年だ。

 やる事なんか、何一つない三年だった。


 だって赤ちゃんだぜ?誰かがいないと生きてけねぇよ。

 いくら転生者だからって、万能じゃないんだな。


 でもって、転生者……チート全持ちの人物って言われて、更に考えた。

 俺も能力を貰っているではないですか、と。

 能力と武器、どちらがいいって言われたんだから、貰ったのは一つのはずだ。

 そしてその能力は――【無限むげん】。

 赤ちゃんのうちは使えないし、一人の機会がないから試すことも出来なかった。


 だから、俺も行動する事にするよ。

 今日の出来事、これはただのキッカケだ。

 死んで、転生して……赤ちゃんから始まった俺の異世界転生は……少年から始まるんだ……


――――――――――――――――――――――――――――――

次話より【少年】編・上となります。

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