1-41【何処に行くの?】



何処どこに行くの?◇


 しばらくして、ドライベジタブルの準備も終わり、ザルには大量の野菜たちがねんねしている。あ、やべ……赤ちゃん語が出ちまった。

 と、とにかくだ、保存食品を作っておくことはいい事であって、農家ならではの工夫もされているんだよ。

 俺なんかはさ、コンビニとかでたま~に買う程度だったが、こんな大変な思いで作ってるんだよな……きっと日本でもさ。もっと味わって食えばよかった。


「……ママ」


 お?クラウお姉ちゃん……どうしたんだ?


「んー?どうしたのクラウ」


「あそびに行ってくる」


 ――!……ど、何処どこに行くんだ?まさか、あっちか……?

 俺はふと、嫌な予感をその身に感じた。


「気を付けるのよ?暗くなる前に、帰って――」


「うん。わかってる」


 だから言わねばならない。

 ちょっと待ってくれ、俺も――行くと。


「ママ……ぼくも」


「――え?」


 俺はレインお姉ちゃんから手を離して、ママンのスカートを引っ張ってアピールする。これからまだまだいそがしくなる。

 だから子供の我儘わがまま聞いてる時間ないだろ?


 なら、答えは一つだ。ママンの言うべきことはただ一つ。


「クラウ。ミオも行きたいって、連れて行ってあげて?」


「……」


 お、嫌そうな顔~。ごめんクラウお姉ちゃん、でも心配なんだよ。


「ぼくも……いく」


「……おとなしくする?」


「……」


 俺は無言でうなずき、いい子でいると約束する。

 クラウお姉ちゃんは、短いため息をくと。


「わかった……いくよ?」


「――うん!」


 差し出された手を取って、俺はクラウお姉ちゃんと歩き出した。





 昨日の林……確かあそこだ。

 ほらな、やっぱり昨日のはクラウお姉ちゃんだったんだ。

 だとしたら、あの不気味なほど綺麗な女も……見間違いじゃないはずだ。


「怖くない?」


「うん。なぁに?」


 此処ここは何なのか、そういう意味の「なぁに」だ。

 クラウお姉ちゃんは、林の中にぽっかりと開いている、子供が入れるほどの小さな穴を見ながら言う。


「……秘密基地ひみつきちだよ」


 ひ、秘密基地ひみつきち?確かに子供らしいけど……なんか変な感じだ。

 クラウお姉ちゃんが言ってるからか?

 それともあれか、この世界では聞き慣れないような言葉だったからか?


「いくよ?」


 え?もう……?なんか怖いんだけど。


「ついてきて」


「う、うん」


 クラウお姉ちゃんはしゃがんで、俺はそのまま穴に入って行く。

 あ~あれだ、イメージ的にはト○ロのいる穴だわ。


 え……?本当にいたりすんの?つかなんだっけ……子供にしか見えないんだっけ?

 俺、見れるよな?精神年齢三十超えてるけど――じゃない!!


 俺たちは進み、程なくして広い空間に出た。


「うわぁ……」


 感動したわ……こりゃ秘密基地ひみつきちだ。

 クラウお姉ちゃんはなんとも思っていないんだろうけど、これってもう芸術のいきだと思う。


 所々からしてくる光で、充分に視野しやはとれる。

 通って来た穴はともかく、この空間は大人でも入れるには入れるだろう。

 身体の大きな男はきびしいかもしれないが、子供なら楽々だ。


 俺が一人、吞気のんきにこの芸術的な空間に感動していると、背後から――聞きなれない声が聞こえて来たんだ、たった今までこの場にいるはずも無かった、その女の声が。

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