第39話 ご褒美な日常?
=コロ↑コロ↓コロ→、(6,6)『クリティカル』=
=コロ↑コロ↓コロ→、セイ(4,1)『5』、リアナ(4,4)『8』=
「フゥー フッ」
銃撃の射線から体を反らし、相対している分身体へと一歩前へ進む。ゼロ距離からの発勁。片手をそえ、前進する運動をもって敵を吹き飛ばす。
シードさんに教わった細胞単位での物理破壊の域までは届いていないが、ダメージを与えながら敵との距離をとる技としては非常に有効。
一人を吹き飛ばしてもまた次の分身体との戦闘が続く。
左右からの銃撃を最小限の動きで回避し、後ろからのタイミングを合わせた脚撃は『チェンジ』で切り換えたラウンドシールドで受け流す。
隙を晒した目の前の敵を攻撃したいところだが、下方からというありえない方向からの銃撃。スライディングで割り込んできた分身体の攻撃だ。僕はあえて大げさに攻撃を避け後方へ退避。幾筋もの銃撃による射線が目も前を飛び交う。
あの場で最小限の回避で済ませていれば回避先を読まれて銃撃に被弾していた。僕は不死者との訓練で最適な行動だけが戦闘を進めるのではないと学んだ。大げさな動作、ブラフ、はったり、無駄な行動、相手の予想を上回るにはアドリブで自身の行動を変えていかないといけない。
大げさな武器モーションで視線誘導を促し、強気な対応、または弱気な姿で自身の現状を誤認させる。その場では無駄な行動は後々の伏線、偶然で起こる戦闘結果などなく全て必然の下で進めることが出来る。
不死者たちの予想ができない行動。もちろん、基礎があるからこそできる戦闘方法ではあるが『真似る』が戦力の要である僕にとって予想できないことは致命的であった。身をもって無駄の有用性を嫌というほど体験した。
ハルバードを振り払い仕切り直し。僕はエリアスとの訓練、分身体千人との混戦を続いていく。
人類種がグンダヴィラ大陸から撤退してから早一ヶ月が経過している。師匠からの連絡はまだない。安否確認ができないことは心配だが、あの師匠の事だからひょっこりと何もなかったかのように帰ってくる気がしてそこまで心配してない自分もいる。協会内の雰囲気も師匠の事はそこまで心配していない。どうやら過去の実績が凄いらしく協会からの信頼が凄い。語彙力が死んでいるがすごいのだそうだ。みんな暢気に『生きてるっしょ?』的な雰囲気で、師匠の事よりも今後世界がどうなっていくかの方に視線が向いている。
師匠の事はそこまで心配していないが、師匠が連絡が取れないほど追い込まれる状況には危機感を感じている。状況的に次に事件が起こるのは他の大陸。グンダヴィラ大陸を足掛かりに他大陸へ攻めるのではないかと話が進んでいるようだ。
次に仕掛けてくるまで時間が空くと予想しその間に情報の精査と対策の準備を進めてるのが世界的な動きとなっている。
連絡が取れなくなるまでの師匠からの情報と世界各地で集められた情報により異世界からの侵略であることはほぼ確定している。侵略者の戦力や首謀者、どういった存在なのかといった情報は全くと言っていいほどない為、それらの情報を集めることが急務となっているのが今の状況と言えるだろう。
僕としては今の情勢に対して何か動くことはできない。国を動かすような権力もなく、世界を救うために動く義務もない。一般人同様に日常を過ごしていく。
ただ、危機感は消えないので修練を続けている。ここまで力をつけた僕だが、まだ不安が拭えない。もう何度も不死者と模擬戦を繰り返しているが勝てたためしがない。何をどうすれば勝てるのかビジョンも思い浮かばず、明らかに手加減をされている。そんな僕がどうして安心できるか?いや出来ない。みたいな逆説的に話してみたりとちょっと焦っている僕がいる。
それもこれも修練が伸び悩み始めたからだ。これまでの日常では扱いきれていない能力『分解』『魔眼』『転移』を重点的に修練することで目に見えて成長してきた。その後も数々の不死者と模擬戦を繰り返しその武術を取り込むことで僕の武術を昇華させ続けている。
しかし、ここにきて明確に劣っていると思われる能力は見えなくなった。裏ステータスで獲得しているスキルは不死者との戦闘の中でも通用するほどには実用性を上げている。基礎スキルに関しても不死者の動きをトレースすることでより洗練されてきている。生活魔法も裏ステータスの分割スキル毎に能力を発揮するようになっている。魔力操作に関しても試練を乗り越えてことで完全習得し、生産者の最終指導を乗り越えたことでより昇華した。
後僕が突き詰めることが出来る能力は何だろうか?才能がなく多彩な能力を持ちえない僕に突き詰めることが出来る能力などあるのだろうか?
『遊び人』に至った時に感じた一生かかっても使い行こなくことが出来なかった予感は、不老となり長い年月をかけて試練を乗り越えてその後も不死者と何度も何度も時間を忘れる修練を続けることで、覆した。
正直、自己評価として不死者に勝てていない自分が言うには甘いかもしれないが、万能の力を手に入れているように思う。
多才な武器を扱い、不死者たち強者の動きをトレースし、生産活動をも自身で完結することが出来るまで技術力を上げている。
僕としてはこの能力の限界を感じているのかもしれない。
まだまだ、習得していない不死者からの教えはあるが、走り切った先の限界が見え始めたように感じているのだ。
不死者との訓練は初めとは段違いの訓練内容に変更されている。エリアスとの訓練だけをとっても100人の連続組手が100との同時組み手になり徐々に人数が増えていき今では1000人を同時に相手をしている。
訓練時間は変わらず、現実時間で30分。体感時間50年の修行時間に変化はないがより濃密な死と隣り合わせの難易度の修練へと変わっている。
シードさんとの訓練では一撃を加えることから致命傷を与えることまで難易度が上昇しシードさんの自己申告によれば10分の1の力は出しているそうだ。
100分の1に比べれば10分の1は大きな進歩だがそれでも手加減されていることには変わりない。
他の不死者でも同じような傾向で難易度が上がっているがそれでも手加減されている。
こんな状況では安心などできないし、強さを求める僕としては焦りを感じている。
今日も変わらず朝練から引き続き不死者との濃密な模擬戦を続けている。
ハルバードによる唐竹割。『バレット』によりインパクトの瞬間、一瞬硬直させ確実に攻撃を命中させる。空中からの大振りいうこともありダイナミックで隙も多い一撃ではあるが威力は見た目通り申し分なく、エリアスの分身の一人を真っ二つに屠る。
「ラス一ぃ!」
今の攻撃で残る分身体はあと一人となった。最後まで集中を切らさず、相手を観察しながら、丁寧に戦闘を続ける。
僕は最後の一人は決まってガンカタで攻める。エリアスの技術を盗む上でも実際に真似ることは大事。『真似る』でいくら知識として取り入れたとしても実際に動かせなければ意味がない。
二丁の拳銃を手に勝負を挑む。
接近からの銃口を向けるが軽く手で払われ逆に銃口を突き付けられる。最小限動きで射線から体を反らし逆の銃口を敵に向ける。相手もまた無駄を省いた動きで射線からずれこちらへと攻撃を仕掛けてくる。
互いに決まった型を繰り返し永遠とも錯覚してしまう攻防を続ける。
銃身で、グリップで、拳で、足で、肘で、膝で、ありとあらゆる部位で隙あらば攻撃を仕掛け、回避され、攻撃をいなし、反撃を加え、ゼロ距離での攻防が続いていく。
互いの癖から型が乱れ、あえて型を乱し、フェイントを加え、より変則的なレンジ、戦闘距離での攻防が始まり、静かな打撃戦から激しい銃撃戦へと戦闘の流れが変化していく。
互いに動きは早くない。素人の目でも追えるほど二人の攻防は舞いを行っている様に華麗なもの。しかし、見るものが見れば、僅かな時間に挟まれる心理戦は、フェイントの織り交ぜは、至上の領域に至っている。
戦闘である以上いつかは決着がつく。一つのずれから戦闘の行方が傾き、徐々に圧していったセイが最後には眉間を打ち抜き勝利となった。
「す~~~~ ふぅ~~~~」
大きく息を吐き、本日の模擬戦は終了となる。時間にしたらいつも通りの時間。毎度毎度のことながらエリアスに模擬戦の時間を調整されているのだろう。どこまで読まれて分身体の実力を調整していることやら。
ビーちゃんを銜え、天を仰ぎ、青い空間に魔煙の煙を燻らせる。
実力が上がっていることは確かだがまだまだだ。戦闘能力は確実に上がっているのだが、、、何だろう?時計は動いているのに小さな歯車が足りないと表現すればいいのだろうか?何か一つ足りないと思う違和感が拭えない。たぶん、この違和感も僕の漠然とした不安につながっているのかもしれない。
この違和感が何度修行を続けても抜けない。何か足らないのは確かなのだがそれが何なのかがわからない。いや、分かろうとしない?解っているのに分かっていないフリをしている?どうも、自分のことながらややこしい。
「ふぅ~ まだまだ、修行が足らないってことかな~」
いつもと同じ結論で思考を放棄し、今日の修練での反省点や改善点、取り入れていきたい技術などを整理していく。
「ん、こっちも終わった」
リアナが憑依を解除し目の前に現れる。
「お疲れリアナ」
「ん、おつ」
何とも軽い雰囲気だが、リアナの修行は集中力を多分に消費するものだ。僕以上に精神的な疲労は大きいと思う。口数がいつも以上に少ないのはそのせいかな?いや、いつも通りな気もするし、、、う~ん。どっちだろう?
「疲れはあるから口数は少ない、かも?」
「話し方がいつも通りな気がするからわからんなぁ~」
「でも、セイには通じる」
「うん、まぁ」
それはそうだけど、、、もう何千年もリアナと四六時中いるわけだから嫌でもわかるというもので、、、てか、嫌じゃないから普通にわかるし、、、思ったら初めから結構わかっていた気がしなくも・・・。あれ?
「私とセイは相思相愛 通じ合わない訳がないでベストアンサー♪」
「あー、うん そうだねー」
なんでもいいや。いつも通りいつも通り。
そんないつも通りの会話を続けているとエリアスが毎度の様に唐突に出現する。
「おう、お疲れさん 今日はちょっと渡したいものがあるから転移はちょっと待ってくれな」
「「・・・?」」
ここはいつもとは違う流れ。いつもであれば問答無用で短い会話の後には自宅へと転移させられる。
ごそごそと空中に出現した黒い靄から何かを取り出そうと手を突っ込んでいる。
「え~と? これじゃない、これでもない ・・・あったあった セイにはこれで、リアナにはこれな?」
ポイポイといろいろな物を放り投げた末に手に取ったのは二つの武器。僕に渡されたのは弓。隣でリアナがもらったのは盾だった。
弓と盾はどちらも同じ素材で作られているようだ。光の加減で半透明にも見える青色の素材。角度によっては金と銀の線が入り芸術品としても価値がありそうだ。
「二つとも俺の作品だ」
エリアスから詳し性能を聞くにつれ、この武器がどれだけ壊れているかがわかってくる。
万能細胞であるスライム細胞で作られているこの作品。エリアスの細胞、特殊オリハルコン性のこの武器は共通して三つの能力が付与されている。
一つ、『自動修復』
どれだけ破壊されたとしても時間をかければ完全修復される付与効果。ただでさえ最高硬度であるエリアス独自の特殊オリハルコン性の為、めったに欠けることもないがもし壊れたとしても数時間で完全修復する性能を持つ。
二つ、『成長』
この武器は独自に成長する。スライムとしての魔物の特性を持ち、そのまま成長していけば精霊にまでなれるポテンシャルを持つ。生物としての特性を持つという事はステータスも存在するため最終的にどのような武器になるかはその時になってみなければわからない。
三つ、『最適化』
使い手に合わせて最適な形状、能力へと変貌していく。『成長』の能力とも合わさり何になるかは使い手次第。無限の可能性を持つ、ユニーク武器となる事が決定している武器だ。
「簡単に言えば、使い手に合わせて変化するそいつだけの武器だ なんでその武器にしたかは俺の気分だから深く考えなくてもいいぞ」
エリアスから説明を受けた後、簡単な扱い方に関するレクチャーを受ける。と言っても今まで使っていた武器と同様に使って行けばいいらしい。とりわけ扱いに注意が必要なモノでもないので本当に簡単なレクチャーで終了した。
かるく弓を撃ってみたが、その僅かな使用感だけでも弓は変化をしていく。標準的な弓の形状が長弓へと変貌を遂げ、より一撃の威力、飛距離、消音性を重視した能力へと偏り始めた。
矢に関してはエリアスから一本だけ貰い受けている。二本目以降は自分でどうにかしろとのことなので最低限この矢を再現できるように技術力を上げようと思う。これまた特殊合金製の矢で魔力内包量が果てしなく高く高性能な一品。これを再現するのは骨が折れそうだが新しい目標ができたと前向きに考えて取り組もうと考えている。
リアナの方は・・・いつの間にか盾が鍋の蓋に形状が変化していた。他にも、フライパンや鉄板、金網など調理器具へと変化していく。どうやら盾としての性能よりも調理道具としての性能に変化しているらしい。どうしてそうなったのかは・・・。
「ん、冥土だから」
だそうです。・・・深く考えてはだめだ。
武器の変化が安定するまで試し打ちを繰り返した後、解散となった。
いつも通り頭をガシッと掴まれ自宅へと転移する。
唐突なイベントではあったが、少しは戦力強化に繋がったのかもしれない。
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転移後はいつも通りの日常。今日の予定としては特に何もなく、ここしばらく休むことなくいろいろ動いていたので休日だ。
のびのびと午前中を過ごした後、昼食後ぐらいに出かけようかとリアナと話している。
リアナが昼食やらを作っている間、僕は不死者との修練後は集中力が完全に切れるのでぽけーっとソファーで何をするでもなくテレビを見ている。
垂れ流しにしているニュースからは、現在のグンダヴィラ大陸の状況について話しているが情報らしい情報を何も入手できていないらしく、どーでもいいことを議論している音が流れている。
ふと音沙汰のない師匠の事が思い浮かべたが、イメージする師匠はヘラヘラとなんでもないかのように笑っている。う~ん、見習い人時代の師匠は厳しいイメージが強かった気がするんだけど・・・いつからこんなイメージに変わってしまったのだろう?たぶん、二回目の師匠の指導の時からかな?あの時は厳しかったけど小馬鹿にしてくることも多かったからそのせいかもしれない。
そんなどうでもいいようなどうでもよくないような事を考えて休憩しているとあっという間に時間は過ぎ昼食となった。
今日の昼は冷やし中華。以外に具材となる材料を揃えるのが面倒な一品。リアナはあらかじめ出来合いのモノを出すかの様にトッピングしていき三分もかからずに食卓へと並んだ。
リアナの分身体たちが各地で活躍しており、この料理の提供の速さもその産物ということでいいはずだ。ときどき分身体が過労死しないか心配になるがそもそも分身なのだから関係ないかと思い直す。でも、働かせすぎでは?と思うことはおかしいのかな?
リアナの顔を確認するが満面の笑みを浮かべて頬を赤く染めるだけで何もわからない。まぁ、かわいいしおいしいから何でもいいのかな~。
「きゃ~ (⋈◍>◡<◍)。✧♡」
こういうところは分かり易いから安心するなぁ~。冷やし中華美味しい。。。
食後は一息ついた後、お出かけをする。
特に目的がある訳ではないので、夕方ぐらいに夕飯の材料を買えばいいかな?それまでは街中をぶらぶらとウィンドショッピングでもしてましょうかねぇ~。食材の補充が必要ないことには目を瞑ろう。リアナは一緒に買い物をする事をしたいのだから問題なしだ。
「ん、モーマンタイ」
リアナもこういっている。僕も少しはそういうことが分かってきたのだよ。
「じ~~~~~」
「・・・なに?」
「・・・ん なんでもない」
・・・僕は何か間違ったのかもしれない。まだまだ分からないことは多い。もっと精進せねば(?)。
リアナとのなんでもないデート(セイの視点ではこのような表現になるが周りから見れば、それはもうラブラブ度合を見せつけるようなデート)は問題も起こる訳もなく進んで行った。
カフェでまったりとした後、夕食の食材を買うことになった。
市場で夕飯をどうするか話し合いながら歩き、あーでもないこーでもないと何でもないことを話す。
そんな風に歩いていると、周りから音が消える。
疑問を感じる前に視界が白一色に染まった。
これはただの直感的な行動。考える間もなく体は動き、抱き着いていたリアナを突き飛ばした。
僕が動けたのはそこまで。
白一色に包まれる。
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