第33話 勘違いされ絡まれる日常
=コロ↑コロ↓コロ→、(3,3)『6』=
=コロ↑コロ↓、『6』=
セントヴェンでのいつもの日常の日々。
今日のセイは午前中からモノ作りに集中している。
がちゃがちゃと何かを探している。見つからないのか収納空間内もひっくり返して探しているようだ。
「リアナ― ラビット系の魔物の素材ってまだある?」
「ん、ちょっとまって ・・・・・んーん、ない 全部セイに素材は渡してる」
「そうだよなぁ 低階層の素材を使い切るなんて珍しい 今日の午後はダンジョンに潜ろうかな~」
「ん、いっしょに行く」
趣味の魔道具を作る上で以外に必要になるのが低階層の魔物素材。細工師で使う内部の回路や極小のギミックを扱う上で必要になる。深層の高濃度の魔力に汚染された貴重な魔物素材よりも低階層の大量に入荷されるありふれた素材の方が必要なことは多い。
深層の素材を使用することもできるが、その道具を扱う上でも高度な技術を要求されるようになる。今回趣味で作っているようなおもちゃには必要のない素材だ。
今作っているのはオフラインで使うゲーム機。機械技術ではなく、魔法技術を基にプログラミングを構築している。データー容量の部分は深層の素材をふんだんに使用し、市販されているものに負けないほどのもになっているはず。途中の回路を繋げる部分で低階層の素材が必要になるのだが、あると思っていた素材がなかったというのが今の出来事だ。
ラビット系統の爪や角の粉末が必要なのだがこれがない。暇つぶしに低階層に潜ることもあるので足らなくなるとは思いもよらなかった。スライムでも代用できないことはないが魔力伝導率が良すぎるため、作成する上で必要な技術が飛躍的に上昇することになる。
要求される技術が少なく、簡単に採取できる素材がラビット系なので午後からダンジョンに潜ろうということになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
探索者協会にて。
「こんにちは、セイちゃん 今日はどうしたの?」
「ラビット系のダンジョンに潜りたくて 開いている場所ってありますか?」
「兎ねぇ~ ちょっとまってて~」
マートさんの作業が終わるまで少しの間待つ。
「・・・ねぇ、リアナ なんか視線を感じない?」
「ん、感じる でも、どこかわからない」
なんだろう?少し不快な観察するような視線。一瞬のことで今では感じないが確かにさっきまで見られていた。
僕たちを観察する理由がわからない。僕たちは別に有名人でもないし世界を旅したが名をはせた覚えはない。それに観察す視線が不快なものだったのだ。恨みを買うようなことこそ身に覚えがない。
「なんか恨み買った覚えある?」
「んーん、ない 悪いやつはみんな消した」
「・・・・・・それじゃない?」
リアナさん何してらっしゃるの!?いつ消したの?それこそ見覚えがないよ!?
「ん、分身が秘密裏にちょめちょめ バレるはずがないからモーマンタイ」
「いや、バレるバレないの問題じゃない気がするのだが・・・」
あぁ、完全に迷宮入り。どこかで恨みを買っててもおかしくないわこれ。
僕が苦悩しリアナが大丈夫大丈夫と慰める中、マートさんが戻ってくる。
「何かあったみたいだけど、聞かないでおくわ」
「ん、それが賢明」
「マートさーん(泣)」
「よしよしヾ(・ω・`) とりあえずこれね? 五つほど手のついていない迷宮があったからここにするといいわ」
マートさんに慰められながらも進められた資料を確認する。うん、マートさんの仕事は完璧で今欲しいダンジョンの情報が書かれていた。
「ありがとうございますぅ いってきますぅ」
「ん、いってくる」
「行ってらっしゃ~い 気を付けてね~」
マートさんに見送られて僕たちは素材採取へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
マートさんの仕事はやっぱりカンペキ。どのダンジョンもあまり探索されていなかったらしく魔物が多く存在した。僕たちの能力を考慮して、最も効率よく素材を集めることができる場所を紹介してもらったようだ。
ダンジョンの広さもそれほど広くなく、だいたい一つのダンジョンに一時間ほどで攻略が完了した。目的としていた素材群も相応に集まりこれでしばらくは素材不足に悩むことはないだろう。
「これだけ集まれば十分かな」
「ん、帰りに夕ご飯の食材かってく」
「何か足らなかったっけ?」
「んーん、足りてるけどお買い物」
なるほど?えーと、お買い物がしたいだけってことだな。
「・・・まさか、時間を作るために分身を大量に使ったの?」
「ん、あたりまえ」
あぁ、あたりまえなのねぇ~。素材採取の時間を短縮するためだけに様々な分野で活躍している自身の分身たちを集合させるとは・・・。
予定ではそれぞれの迷宮で30分ほどさらに時間がかかる計算だった。七時間半かかるところを五時間で終わらせてしまったのだ。
普段、リアナの分身たちはそれぞれの分野で活動している。箱庭内では、農場や森林管理、酪農、自宅の清掃などなど。水質管理なんてものも管理している分身体がいる。他では、情報収集や冒険者活動、地上の自宅の清掃管理、食材などの在庫管理などなど本当に多岐の分野に分かれて活動している。
その全ての活動を一時的に停止させてまで今回の素材採取時間を短縮させているのだ。たとえ不老の身であれど一日の時間は限られている。その日にできることを中断してまで、買い物デートの時間を捻出するとは恐れ入る。
「あんなに分身を使ってもよかったの? もう帰ったみたいだけど・・・」
「ん、だいじょうぶ 分身も交代制で活動してるから余裕がある」
なるほ、ど?え?ちょっと待って?そんなにいるの?交代制でシフト組むみたいに活動してるの?いくらなんでも多すぎないか?
「ん、日に日に増えてる」
「そんなに増やして大丈夫? 意識を分割してるんじゃなかったけ?」
「ん、分割してるのもある けど、最近は独立して動いている分身の方が多い」
なんかすごいねぇー。分割思考で動くはずの分身体が自律的に動くようになるなんてなにをしたのだろう?今まで分割思考で何体の分身体がいたのかもわからないけど、独立して動くようになった分身体が増えたとなると僕の予想以上の分身体がいるのだろうなぁー。
「大丈夫なの? 負担が大きいと思うんだけど・・・」
「ん、大丈夫 むしろ以前よりも楽に使えてる」
「それならいいけど・・・」
あんまり無理しないでほしい。ただでさえ、リアナに頼り切りなところがあるのにこれ以上無理をされたら僕はどうしたらいいのだろう?
「ん~♪ そんなに心配しなくても大丈夫 むしろ元気は有り余ってる」
「本当に無理しないでよ? 僕ができることならなんでもするからさ」
「~ッッ!♪ わかった、なんでもおねがいする♪」
・・・あれ?早まったか?早まったかもしれない。いや、早まったな!どうしよう・・・リアナのテンションがおかしぃよぉー。
ちょっと間違えたかもしれない会話を続けながら五つ目のダンジョンから出ようと移動していると、見るからにチンピラな方々とすれ違う。
そのまま、横を抜けようとしたがそのチンピラな方々に立ち塞がれてしまった。
「おう、身ぐるみ全部おいt・・・ぐHUぅ」
僕は何か話そうとしていたチンピラAの鳩尾に、瞬時に『チェンジ』で手元に召喚したこん棒を突いた。
チンピラAは白目をむきぶくぶくと泡を吹きながら崩れ落ちる。周りのB~Jは動揺して動けないようだ。
「「はぁ~」」
ドグッs
僕とリアナはため息を吐きながら一息に残り9人のチンピラB~Jを沈めた。
「僕ってそんなに絡みやすそうに見える?」
これでも探索者協会内では有名人な気がするんだけどなぁ~。
「んーん、セイはかわいい」
「いや、そうじゃなくてな?」
「かわいいから問題なし」
「だから・・・ぅぶ」
「かわいい♪」
反論させないために胸に埋めるのはずるい。これでは喋れない。
「ん、それに私がメイド服なのも理由あるかも」
あー、それもあるかも。ダンジョン内でメイド姿は目立つし不自然なことも理由かもしれない。
「今日は帰る あとはデート、しよ?」
「ぷはぁ わかったよ マートさんに報告してから行こうか」
「ん♪」
チンピラたちは放置で、僕たちはその場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
セイとリアナが立ち去った後、チンピラたちが残された場所に人影が一人現れる。
「流石御姉様方ですわ 何事もなかったかのように出ていきましたわね」
現れたのはリアナの分身体が一人。愛称はヤミイチ。隠密担当、闇部隊、隊長、闇の一が彼女の呼称となる。
隠密担当は闇、夜、影の三部隊に分かれ、それぞれ9人ずつの全部で分身体の数は27人となる。他にも農業担当の森、林、樹。水産業担当の水、川、海。清掃担当の風、飛、空。などなど基本三部隊27人編成で分身体たちは活動している。
その中で、今回後処理に現れたのがヤミイチという訳だ。
「まったく、よりにもよって御姉様に絡むとは運がありませんわね」
リアナの分身体であるはずなのに性格が違ってくる理由は・・・リアナ自身も分かっていない。長年(繰り返しの時の年数も合わせて)使い続けたことで分身体が自律的に動くようになった。分割思考で動かしていた場合は性格が変わるようなことは起こらなかったが、独自にそれぞれが活動するようになり徐々に性格に変化が現れた。
リアナの予想では最初の繰り返しの時の中で人格が分裂していたのではないかと考えている。何年間、同じ時の中を繰り返したのかも曖昧であり記憶にない時間も多くある。いつかの繰り返しの時の中では分身体のような性格の時があったのかもしれない。
リアナ自身の事ではあるが予想でしかわからないしセイと生きる上で必要な情報ではないので問題ないと判断している。分身たちとは情報が共有されていることもあり、むしろ性格が違うことで違った見解を得ることができると判断している節がある。
簡単にまとめれば『問題ないしめんどくさいからこのままでいっか』と放置しているだけだ。
「さて、パパッと後処理を終えましょうか」
ヤミイチは手を翳す。
「・・・ほとんど駄目ですわね」
チンピラたちに何も変化は起こっていないが作業は終了した。
リアナの魂装は『冥土の嗜み』。
メインとなる能力は冥土として必要なものを召喚する事。
リアナがメイドとして必要と思う事、掃除するための掃除用具や外敵を排除するための暗器などを召喚する。人材が足らないのであれば、必要な人材を召喚する。
リアナの祝福で授かった『英霊召喚の魔法陣』とも絡んでおりリアナの召喚技術を補助する役目もこの魂装には備わっている。
では、メイドとして必要なモノとは何か?
リアナにとってメイドとは奉仕相手が最高の一日を過ごせるようにすること。具体的にはセイがストレスをため込むような状況を作り出さないことに集約される。
でも、セイはよくリアナや周りの状況に振り回されているではないかと思われるだろうが、これもまたリアナの計算の内だ。
全てを完璧に熟すだけがメイドではない。相手の心をも奉仕してこそ完璧なメイド。
セイの身の回りの世話を完璧に熟してセイをベットから動かさずに何不自由なく過ごさせることもリアナには可能だ。しかし、それではただの介護である。
日常を送る上で、何気ない不自由は日々のスパイスとなる。
今朝の出来事も事前にラビット系統の素材を揃えておくことは可能だがあえてしなかった。同じルーティーンを繰り返すだけでは飽きが来てしまい楽しかった日常は退屈となる。
精神的に辛い事をルーティーン化するのはいいことだが、楽しい日常を作業にしてしまうことはとても損なことだ。
だから、リアナはセイを振り回す。自身も無意識に考えていないこともあり予想外が発生する。最強のステータスを手に入れているからこそ最悪を想定せずに過ごすことができる。余裕がセイとリアナの日常を形作っている。
魂装の元はメイドとしての活動を完璧に熟すためのモノであるため、メイドとして必要なモノとは、リアナが冥土として必要と思ったモノだ。
そのため、この魂装の適応範囲は広い。
今回の後処理であれば、チンピラたちの将来を仮定して覗き見た。
メイドとして今後の事を予想、想定し準備をすることは当たり前。冥土に概念を応用させたことで対象の仮定した未来を覗き見ることができる。
仮定する未来はシンプル。改心するか、しないか。
チンピラの殆んどは上辺だけで心から改心しなかった。契約による制約でしばりつけても契約違反で自滅する未来しかなかった。
そんなどうしようもない人間はダンジョンで証拠を何一つ残さず処分するに限る。気絶しているチンピラをダンジョンの壁面に開けた穴に放り込みダンジョンの栄養となってもらった。
残りの二名は気つけをし、契約を行う。
内容は曖昧。二度と悪行を行わないこと。行った場合、速やかに自殺する事。この曖昧な契約でこの場を解散とした。
悪行の範囲は広いようで狭い。本人が悪行と思わなければそれは悪行ではないのだから範囲外となる。
では、なぜこのように曖昧なのか?理由としては契約を縛り過ぎると疲れること。わざわざこんなチンピラに力を使う気がないこと。セイ以外に興味がないのでチンピラなどどうでもいいこと。今回の契約を重く捉え違反しない人間しか残していないこと。
総じて、めんどくさいから適当に処理をした結果だ。
分身による後処理は速やかに終了した。
「御姉様へ、一つ報告ですわね」
少し不可解な点があるとすれば垣間見たチンピラたちの情報。薄い緑色の肌の人間種に焚きつけられていた情報だ。世界を回り様々な場所に訪れたが雑多なセントヴェンの街中でも薄い緑色の肌の人間種に出会ったことがない。
この情報は本体のリアナへと共有される。
(これは・・・だれ? わざわざ私たちに仕向けるように誘導している?)
ヤミイチから共有された情報。協会での不審な視線の事もあり少し気になる情報だ。他の分身体からも別視点から同じような情報を受け取っている。
(実際に仕向けている緑肌の人間種は見つかっていない 移動の形跡もなく忽然と姿を消している だれだろう?)
これは警戒する必要性があるだろうか?嗾けてきたのがあのようなチンピラだ。全くと言っていいほど私たちの脅威にならない。
(う~ん、どうすれば・・・)
「・・ナ ・アナ リアナ? 大丈夫?」
む、セイに心配をかけてしまった。もう少し情報が集まってから整理しよう。
「ん、大丈夫 ちょっと、気になる情報 薄緑肌の人って見たことある?」
「薄緑肌? ゴブリン種とかの小人じゃなくて、人間種」
「そ、人間種」
エルフやゴブリンであれば地域によって肌の色が大きく異なるのでわからないこともない。でも、普通の人間種の見た目となると途端に見なくなる。人間種は奇抜な色の肌をもつ人種を見かけない。魔人種であればまた別なのだが、断片的な情報を集める限り違うと思う。
「・・・心当たりがないかなぁ」
「チンピラから情報を抜き取った感じだと、薄緑肌の人種が嗾けたみたい」
「へぇ~って、ちょっとまって 情報を抜き取るって尋問したってこと?」
「んーん、冥土した」
「メイド?」
「ん、冥土」
「???」
セイは混乱したみたい。ただ、冥土しただけなのに・・・。
「メイドは冥土であって、冥土であるからメイドなんだよ?」
「・・・・・・ごめん、ますます何言ってるのかわからない」
「だからね?メイドは冥土なの メイドは奉仕する事 奉仕することは冥土へと繋がるの メイドは全てを想定して完璧に物事を熟さなければならない 冥土は完璧に熟したうえで不完全を加える事によって、より上位の環境を作りあげるの だからメイドは冥土へと繋がっているの 冥土することで想定を超えた結果を導くこともある 生活魔法もメイドの一部 昔の人はメイドを完璧に熟すためにこの超常の魔法を構築した 一部でも習得することができればより短時間でメイドへと至ることができる 私はそのメイドへ至った先に冥土を見つけた 冥土は知識であり環境であり世界であり概念 何者においても冥土を通さずに完璧には至れず、メイドだけでは不完全を内包しないがために冥土とはなりえない メイドは冥土でありメイドってことなの」
「うぅ、めいどがゲシュタルト崩壊してイミガワカラナイ」
あらら、セイのかわいいお目目がぐーるぐる。なんだかちょっとおもしろい。
「ん、それより買い物行こ?」
「・・・うぅ そ、うだね マートさんにダンジョンの報告は終わったし行こうか」
ちょっとふらふらしているセイを支えながら探索者協会を後にする。
その後はセイを正気に戻し、買い物デートをして、なんでもないたわいない会話を交わして、一日が終わった。
今日もセイの可愛い姿が見れて満足。明日もセイを愛でるためにいろいろなことを準備しなきゃ。今日は突発的とはいえなかなかな結果に終わったと思う。お目目ぐるぐるなセイはかわいかった。チンピラは邪魔だったけど、どうしようもない者は一定数いるから仕方がない。
緑肌の人間種。あまり脅威になりそうにないけど正体が不明なのが少し気がかり。少し隠密部隊には動いてもらおうと思う。でも、他の情報と並行してだから情報の集まりはあまりよくないかも。
ん、私の最優先はセイだからそれは仕方がない。
明日も明日で最高にセイを堪能しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます