第33話「参加者たちと巡り合う」
「楽しんでくれたらうれしいわ」
と光翼寺が言うと、
「ひゃ、ひゃい! 頑張りましゅ!」
ニーナは背筋を伸ばして気合いの入った返事をする。
どう見ても空回りしているけど、光翼寺にとっては好ましいようで、笑顔で去った。
「あー、緊張したー」
光翼寺が充分離れたところでニーナはげっそりする。
普段の明るさはどこへやら、今はダウナー系女子に変身していた。
「お疲れさまです、お嬢様。ご立派でしたよ」
静江さんが優しく彼女に声をかけ、飲み物を渡している。
俺たちにもミネラルウォーターが配られた。
大人たちはシャンパンのようだけど、俺たちは飲めないからな。
「今日も集まってくれてありがとう」
と元春老人があいさつをはじめる。
「では楽しんでくれ、乾杯」
十分くらいは続くかと思って身がまえたけど、五分の一程度で終わって少しほっとした。
乾杯の唱和にならって千歳とニーナとおこなう。
他の参加者に知り合いはいないし、それどころか未成年も俺たちくらいのようだ。
……俺たちやニーナの参加が認められているくらいだから過激な内容じゃないと判断していたんだけど、早計だったかな?
それともたまたまだろうか?
なんて考えていると次に光翼寺が壇上に立ってあいさつをおこなう。
みんな談笑を止めて彼女に注意を向ける。
「今回は孤島の館もの、とだけお伝えしておきますね」
と光翼寺が説明すると、
「クローズドサークルかな」
というつぶやきが生まれた。
「たしか外と連絡手段も交通手段もない状況で事件が起こるんだったかな」
漠然とした知識なら俺にもある。
「おそらくはそういう設定にして、イベントが進むのでしょうね」
と千歳が予想した。
そりゃ高そうな服を着た男性、宝石を身に着けた女性もいるからな。
現実にそんな展開が発生したら騒ぎどころじゃないだろう。
「ここは孤島だから台風が来たり、大雪が降ったら一気にやばくなるはずだけどな」
不吉な話なので千歳にしか聞こえない声量で言った。
「あら、大丈夫よ。食料はたっぷり二年分はあるし、自家発電設備も充実してるから」
ところがニーナには聞こえてたらしく、微笑で教えられてしまう。
そばの静江さんにご安心くださいという表情で目礼される。
「なるほど、安心してよさそうだ」
水、電気、食料、寝床が揃っているなら心配はいらないか。
「そもそも何かあるわけないじゃない」
とニーナが笑って、少し離れた位置の男女二人組を見る。
「警察も今回は来ているんだから」
そして俺と千歳にささやいた。
「へえ」
警察がいるのか……驚いたというよりは好奇心を刺激されたと言うべきだろう。
ちらりと目を向けてみると、紺のスーツを着た若い女性はわからないけど、グレーのスーツを着た40代の男性の顔には見覚えがあった。
「津久田警部ですね」
と千歳も目を丸くしている。
「知り合いなの?」
ニーナも驚いたらしく、意外そうな目で見上げてきた。
「まあな」
言葉を濁したのには事情がある。
津久田警部は【異能犯罪本部】の一員で以前の事件で知り合ったのだ。
向こうも俺たちに気づいたようで、女性をともなってこっちにやってくる。
「久しぶりだな、光彦くんと千歳くん。お前たちも来ていたのか」
津久田警部は苦い表情で口を開いた。
「お久しぶりです。【本部】の人とまさかここで会うなんて、夢にも思っていませんでした」
と俺が言うと彼の表情がさらにゆがむ。
「その俗称はやめてくれ。普通に対策係と言えばいいだろう」
異能犯罪対策係より、本部のほうがカッコいい呼び方だと思うんだけどなあ。
「津久田警部、お知り合いですか?」
彼の左横に立つ茶髪のボブヘアーの女性が不思議そうに訊く。
まあ警察が未成年の知り合いがいるなんて、何事かと思うよな。
もっとも俺たちにもまんま当てはまることだけど。
「幡ヶ谷昭彦氏の孫とその助手、と言えば君にも通じるだろう」
と津久田警部が短く説明する。
「ああ、この二人が!」
一気に理解されたらしいのは祖父の知名度がそれだけ高いってことかな。
そっちだったらいいなぁ。
「初めまして。津久田警部の後輩に当たる、鷲沢若葉と申します」
職業選択間違ってないかと言いたくなるくらい魅力的な笑顔で、鷲沢さんは名乗る。
俺と千歳が名乗り返すと、
「うわさはかねがね。まだ高校生なのにとんでもなくすごい二人組がいるって、評判だったから」
鷲沢さんはにこりと笑う。
「光彦はともかくわたしは未熟な身です」
と千歳がさっそく謙遜するけど、二人には通じてないな。
「一つ忘れてるんじゃないか、鷲沢警部?」
階級の部分を津久田警部が強調して呼びかける。
「警部!?」
驚いた声を出したのはニーナだったけど、俺や千歳も同じ心境だった。
鷲沢さんはどう見ても二十代半ばくらいか、下手すれば女子大生にしか見えない。
見た目がすごく若いだけで実は津久田警部と同年代なのか、それとも……。
「あーあ。タイミングを見て明かそうと思ってたのに。女の秘密を勝手にあばくなんてひどいですよ」
鷲沢警部はいたずらが発覚した少女のような表情で言う。
苦情を言われた津久田警部は疲れた顔で深々とため息をつく。
「悪趣味なやつだな。その点だけ見れば、とてもキャリアとは思えん」
とこぼす。
鷲沢警部はキャリアなのか。
国家公務員1種試験を突破したエリート中のエリートとは、たしかに思えなかった。
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