第183話 海底ダンジョン 上層

安全地帯で一息ついたあと、11層に向かった。


目の前にはボス部屋と同じような広い空間が広がり、クラゲの魔物がたくさん漂っていた。




『うわ…なかなか面倒くさいな…』




この世界のクラゲは毒や麻痺毒を持っている。


そのため触手に触れられたら最後、身体が動かないうちにじわじわと捕食されるらしい。


なんとか抜け出して逃げた冒険者によると、身体は麻痺しても痛覚は遮断されていないため、非常に痛いとか…




『俺は”デバフ無効”のおかげで大丈夫だが…職種に掴まれたくないし念のため遠距離で対処しよう。』




今回も“直接魔法転移“で攻撃するのだが、ボス戦を経て改善点を見つけた。


それは、行使するまでに時間がかかる点だ。




“3Dレーダー“を行使してホログラムを展開して…敵の座標を把握して…敵に放つ魔法をストックして…そしてその座標に“転移“させる…


手順が多く、その上精密な調整が必要なため行使に30秒ほどかかったのだ。


実戦で使えるようにするためには、せめて一秒以内で行使できる必要がある。




『何かいいスキル無いか…?』




探し始めて数分




“並列思考“というスキルを発見した。


効果は、二つのことを同時に考えられるというものだ。


一方の思考で“3Dレーダー“を行使して座標を把握し、もう一方で放つ魔法を行使すれば時短できるだろう。




試しに近くにいたクラゲ魔物に“並列思考“を利用して“直接魔法転移“を試してみよう。


周囲の魔物に気付かれるのを避けるため、地味に倒せる毒魔法“デッドリーポイズン“を行使する。




『ふぅ…よし、いくぞ!』




時計の魔道具で時間の測定を始めると同時に、“直接魔法転移“の行使を始めた。


結果、七秒削れて23秒で行使できた。




『思ってたより時間削れなかったな…あっ、そりゃそうか。』




時間がかかっているのは放つ魔法をストックして“転移“する方ではなく、“3Dレーダー“を行使して座標を把握する方である。


そのため、全く改善できていないのであまり変化が無かったのだ。




『“ウェポンマスター“と同じように反復練習するか…』




数十分後




11層にいたクラゲ魔物一体ずつを標的にして反復練習をし、目の前にいる一体で最後だ。




『ふぅ…よし、行くぞ!!』




魔道具で時間を測定すると同時に“直接魔法転移“を行使した。


結果、過去最高の六秒で行使することができた。




『よっしゃ!!…あっ。』




最悪なことに気付いてしまった。


それは、今まで止まった敵相手にしか行使していないということだ。




動いているということは、当然座標が変化するということだ。


つまり、敵が動くたびに精密な調整をする必要がある。




『…実戦に向いてないな。何かいいスキルは…あっ!そうだ!!』




一度マークすれば以後どこにいても場所が分かる…そう、魔物研究の際に用いた“ピン立て“だ。


これなら“3Dレーダー“でピンを立てれば、例えどこへ逃げ隠れしても正確に、体内に魔法を打ち込めるはずだ。




早速実験するべく12層に下った。


そこも広い空間で構成されており、目の前には巨大なタコの魔物が数匹いた。




『可食部多いし美味しそう…!ってそうじゃなくて!!』




俺は敢えてタコ魔物に俺の存在を気付かせた。


次の瞬間、タコは危機を感じたようで炭を吐いた。




『うわっ…何も見えない…』




しかし、それはタコ魔物も同じだろう。


俺は一旦距離を取り、そして“直接魔法転移“を行使するべく“並列思考“を始めた。




一方で“3Dレーダー“を行使して“ピン立て“し、もう一方で魔法をストックして様子を見た。


すると、予想通りタコ魔物が動くと座標も連動して動き、ピンを立てた頭の部分から寸分たりともずれが生じない。


そして、落ち着いて“直接魔法転移“を行使して倒した。




『…改めて考えてみると“直接魔法転移“って恐ろしいな。』




もし俺に遭遇して“ピン立て“されたら、俺を瞬殺しない限り確実に殺される。


実に悪魔的だ…




仮にそんな敵がいたとしたら、俺なら絶対に関わりたくない。


悪神の中にそういった能力を持つ者がいなければいいが…




タコ魔物のドロップはなんと、新鮮なタコ足だった。


海底ダンジョンの攻略情報を流したら、この世界に海鮮類の料理が増えるのでは…?




『…落ち着いたら詳しく考えよう。』

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