第162話 要塞都市
「えっと…僕ですか?」
俺は身バレを防ぐために一人称を俺→僕に変え、更に姿を”偽装”して少し幼く見せた。
…と言っても前世の年齢を省くとまだ16歳なのだがな。
「君以外に誰がいるんだい?」
「すみません…」
「いや、いいんだ。それで、君の名前は?」
「オーベルです。」
この名前はグレイに考えてもらった。
昔の同僚二人の名前からとったらしい。
「じゃあオーベル君、何をしていたんだい?」
「魔法の練習をしていました!!」
「…ということはさっきの大規模爆発は君が?」
「はい…迷惑でしたらすみませんでした…」
「いや、いいんだ!ほら、顔を上げて!」
騎馬兵の若い男性がとてもいい人だったので、騙してしまって少し心苦しい。
「…その、オーベル君はどうしてここに?」
「はい!この前ついに師匠の卒業試験に合格したんです!それで、冒険者に憧れて街を目指していたんですが…道に迷ってしまって…」
「そうだったのか…」
”演技”と”役者”のスキルをSランクまで習得したおかげで、悲しい場面になると自然に涙が流れてくる。
騎馬兵の人は、泣いている俺にあたふたしながらも慰めてくれた。
「実はお兄さん達、オーベル君のすごい魔法に驚いて調査に来たんだ。それで、オーベル君さえよかったらお兄さんが所属してる騎士団に合流しない?そしたら要塞都市っていう街まで送れるよ!」
「いいんですか…?」
「もちろん!!」
「ありがとう…ございます!!」
演技では喜んでいるものの、少し面倒くさい展開になってしまった。
怪しまれて攻撃されないように少年を装ったが、逆に保護されてしまうとは…
しかし要塞都市には一度訪れたいと思っていたので、ちょうどいい機会かもしれない。
「じゃあお兄さんと一緒に行こうか!」
「はい!」
好青年は本当に性格が良く、俺の小さい身体で馬に乗るのは危ないと言い、馬を下りて隣を歩いてくれた。
こういう優しい人間も、やはり魔族を憎んでいるのだろうか…?
しかし、そういった質問をして立場が危うくなったら本末転倒なのでやめておこう。
好青年に付いていき、本陣に合流した。
道中ステータスを”鑑定”したら、この好青年はクリフという名前で、なんと副騎士団長を務めていた。
「…遅い!ってクリフ、その子は?」
「あの大規模魔法を行使した魔法師だよ。迷子だったみたいだから保護したんだ。」
女性の騎馬兵がクリフに話しかけた。
この女性を”鑑定”すると、なんと騎士団長を務めていた。
『要塞都市の騎士団はいい人ばかりなのか…?見た目とステータスが一致してない…』
人族の中ではそれなりに強いのに、猛者が放つオーラのようなものを全く感じない。
もしかしたら戦闘が始まってから豹変するタイプなのかもしれない。
「また拾ってきたのか…まあいい。でも敵国のスパイかもしれないわ。帰国次第嘘発見の魔道具を使って尋問して頂戴。」
「了解。じゃあお兄さんの街に行こうか。」
「はい!」
そう言うと、クリフたち六人を置いて本陣は自国に引き返した。
そしてクリフたちは俺の身体を案じて徒歩で移動してくれている。
「あ、あの!師匠に何回か馬に乗せてもらったことがあるので大丈夫です!!」
「無理してない?」
「はい!」
俺は急いで”乗馬S”を習得し、乗れることをアピールした。
「そっか。分かった!じゃあお兄さんの前に乗って!」
クリフの膝の上に乗るという、少し恥ずかしい事態になってしまった。
だが、移動手段が徒歩から馬に代わって時間を短縮できたのは嬉しい。
それから約一時間後
要塞都市の巨大な門が見えてきた。
やはり魔大陸と隣り合わせているため、頑丈な外壁が築かれているのだろう。
「着いたよ!オーベル君はこっちについてきて。」
「はい!」
クリフは門番と何かを話した後、俺を騎士団詰め所へ案内した。
「窮屈な思いさせちゃってごめんね!すぐ終わると思うから…」
「大丈夫です!」
尋問はクリフ本人が行うようだ。
…尋問官は暴力的な人が多いと聞くので、心底安心した。
俺は早速嘘発見の魔道具に”偽装”スキルを付与し、結果を改ざんできるように仕組んだ。
「オーベル君はこの魔道具を知っているかな?」
「いえ…知りません。」
本当はメリル魔道具店で知っているが、敢えて嘘をついた。
魔道具は何の反応も示さないため、”偽装”の付与は成功したようだ。
「これは相手の嘘を見破る魔道具なんだ。だから、嘘はついちゃだめだよ?」
「はい!」
「じゃあまず…」
それから数十分、クリフに質問を受けた。
他国との関係があるか、魔族との繋がりが無いか、要塞都市に対する攻撃的な意思は無いかなど、様々だ。
この尋問を通して、クリフは仕事ができる人だと実感した。
同時に言葉をオブラートに包む、気のいい人だと改めて思った。
「結果は…うん!大丈夫だね!よかった!」
「ありがとうございます!」
「実は…うちの騎士団長が君に興味を持ったみたいでね!会ってもらってもいいかな?」
「…わかりました!」
面倒なことにならなければいいが…
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