第146話 商談②

「失礼します。皆様の夕食を持ってまいりました。」




とっくに日が暮れ、それでもなお商談を続けていると商会のメイドらしき人物がトレイで食事を持って来た。




「…メリルか?」




「ええ!食品担当の商人に頼んでおいたの!」




いつの間に指示をしたのだろうか。


…もしや商談を始める前からか?




「みんな、一旦夕食をとって休憩しましょう!!」




「本当に助かるよー!!メリルさんいつもありがとうねー!!」




「気にしないで!!ささ、冷める前に食べちゃいましょ!!」




商会の料理はやはり店に卸す前だからというのもあり、新鮮な食材で作られていた。


しかも、もっと高級な素材を使って”料理S”で作っている俺のものよりも美味しかった。




「…どこに秘密があるんだ?」




「ダグラスさんも料理をなさるんですか?」




「あ、ああ。」




隣に座っていた、食品担当の商人に話しかけられた。


商談以外のプライベートで話すのは当然初めてだが、この料理の秘密を詮索してもいいのだろうか…?




「そうなんですね!!ちなみにご自身の料理と比べてどちらの方がお口に合いますか?」




「断然こっちだな!何か秘密でもあるのか?」




「そうですねぇ…営業秘密なので細かくは言えませんが、研究に研究を重ねた調理過程と食材と食材の組み合わせ…ですかね。」




「なるほど…」




”料理S”を習得しているだけで調理作業は完璧にできるのだが、今聞いたようなアイデアは自然と思い浮かんだりしない。


やはりスキルに頼らず知識も仕入れないと駄目なようだ。




しかし魔法知識に魔物知識、戦闘知識、それぞれのスキルの知識など、覚えることが多すぎる。


前世の受験や資格試験よりも膨大な暗記量だ。




『…脳の容量が足りない。』




そんなこんなで色んな商人に仕事の秘密を詮索しながら夕食会を終えた。




「じゃあ商談の続きを始めましょうか!あとはいつ分店をヴァルハラに建てるかについてね…」




「それなら僕ら建築担当が行います。ただ、なにせ遠いので建築材料の移動手段がなかなか…」




「それなら俺に任せてくれ。”アイテムボックス”で一気に運べる。」




「流石ダグラスね…分かったわ。」




”空間把握”や”構造把握”、”複製”、”建築”のスキルを行使して、屋敷のときように俺自身が建てても良かった。


しかし、せっかく建築担当の商人がいるのでそこは任せた方がお互いの利益になるだろう。


…金がかかる分俺の労力と時間が浮くからな。




「その前に一つよろしいでしょうか?」




「どうした?」




「一度下見をしたいのですが…いかかでしょうか?」




「そうだな…確かに下見はした方がよさそうだ。いつがいい?」




「そうですね…行くなら全員一斉にがいいと思うので予定を照らし合わせましょうか。」




俺は一応グレイに”念話”を行使し、人族が下見に来る日程で不自由な時間帯があるか聞いた。


結果、民たちはただいつも通りに過ごしていればいいだけなのでいつでもいいとのことだ。




待つこと数十分




「日程調整が終わりました。明後日の早朝に出発でどうでしょうか?」




「移動は空間魔法で一瞬で着くが…どうする?」




俺が質問すると、急に静まり返った。


何故だ…?



「…だ、ダグラスさんは空間魔法を習得なさっているのですか?」




あ、そうか。


空間魔法は今では使い手が世界に数えるほどしかいないから驚いているのか。


ヴァルハラでは普通に行使していたから価値観がずれてしまっていた。




「ああ。試しに”転移”してみようか?」




「え、ええ!!是非!!」




俺は会議室の外に”転移”した。


そしてノックをして再び中に入った。


すると、会議室内でどよめきが広がっていた。




「ま、まさかあの伝説の魔法を実際に見れる日が来るとは…!!」




「それより今…ダグラスさんは詠唱してたか?」




「まさかあの魔法師殺しのスキルも…!!!」




「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」




価値観がずれているため一つ一つのことに驚かれ、対処がだんだん面倒くさくなってきた。


そしてメリルはなぜか自慢げな態度をとっていた。




「…というわけで、移動手段は空間魔法でいいか?」




「は、はい!!!」




「是非に!!!」




「じゃあ移動時間が削れたわけだが…予定はそのままでいいか?」




「ええ。」




「分かった。じゃあ明後日の明朝に会議室に集合しよう。」




「はい!!」




商談を終えた後、酒場で二次会のようなものが開かれたので俺も参加した。


流石は一流の商人たちで、酔ってきたところに営業秘密を詮索しても全く口外しなかった。




二次会を終え、俺はヴァルハラ帝国の玉座に帰還した。


そして幹部に下見の詳細を説明した。




「ダグラス様、問題が一つございます。」




「…なんだ?」




「死の魔力です。」




「…そうだった!結界の魔石に死の魔力を注いじゃったからな…」




「でも結界を張りなおそうにも魔石が無いわよね?」




「そうだな…」




「儂に提案があるんじゃが、死の魔力を無効化する聖属性の魔道具を作ったらどうじゃ?」




「…そうだな!それが一番無難だな。」




魔道具製作でまた忙しくなりそうだ。

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