第129話 領地拡大

グリムらアンデッド軍は影の中に隠れる能力を持っていたため、新たに屋敷を建てずに済んだ。




『今日はもう寝るか…』




ベッドに横になり、そのまま泥のように眠った。


しかし、俺の安眠はすぐさま妨げられた。




ドシドシと、地面が揺れ始めたのだ。


それは地震のそれとは違い、まるで集団の足音のような揺れだった。




『…あぁうるせぇ!!!』




俺は睡眠が非常に好きだ。


言い換えると、睡眠を邪魔されたら相当ムカつくのだ。




『こんな時間になんだよ…!!!』




他の魔王候補者だろうか。


まあこんな順調に勢力を拡大し、力を増していたら接触してくるのも当然か。




「ダグラス殿。」




「どうしたグリム?」




「ただいま巨人の集団の長と話をしたところ、ここの魔王候補者を連れてこいと言っておっての。」




「…今行く。」




装備を整え、来客の前に”転移”した。


すると、目の前には壁がそそり立っていた。




『…は?』




思っていたより巨人たちが大きかった。


全長10mほどだと思っていたが、20~30mあった。




『…そりゃあうるさいわけだ。』




「おいそこの小さいの!!お前が魔王候補者か?」




「…そうだが何か用か?」




安眠妨害とマナーの悪さに怒り、死の魔力を大量に放出しながら答えた。




「…っ!その魔力は…我らが主と同じ。間違いないようだな。」




この巨人たちは他の魔王候補者の配下ということか。


”鑑定”してみたが、この巨人集団の長のステータスはグリムの部下である上位スケルトンにも満たない。




「我らが主がお前と話したいそうだ。明朝、この場所に行け。」




部下に伝言をさせるのはいいが…


時間と場所を勝手に決め、その上配下の質も悪い。




「…お前らの主はたかが知れてるな。」




「何か言ったか?」




「いや、何も。…了解した。」




「そうか。では我々は戻るとしよう。」




そう言って巨人たちはまた地の揺れとともに去っていった。




「ダグラス殿、一人で大丈夫かの?」




「別に一人で来いとは言われてないからな。グレイと一緒に行くよ。」




「ホホッ!!確かにその通りじゃの!!」




「ああ。グリムはヴァルハラの警護を頼む。」




「了解じゃ。」




アンデッド軍は正直、俺でさえ攻略するのが難しいほど強い。


個々の能力はグリム以外大したことないのだが、強さはその連携にある。


グリムの的確な指示があれば大抵の侵入者は殲滅できるだろう。




「グレイ。」




「はっ!」




「明朝他の魔王候補者と会談をしてくる。付いてきてくれ。」




「…しかし、グリムの方が適しているのではないでしょうか?」




「いや、会談中に強襲してくる可能性が高い。だからアンデッド軍にはヴァルハラの警護を頼んだ。」




「そういうことなら承知いたしました。」




平和に事が運んでくれたら嬉しいのだが…


正直前向きな話とは思えない。




『…とりあえず時間まで寝るか。』




そして迎えた翌朝




「じゃあ行ってくる。」




「気を付けるんじゃぞ!」




「ああ。グリムもヴァルハラを頼む。」




「了解じゃ!!グレイ、ダグラス殿を頼むぞい。」




「分かっておりますとも。」




俺はグレイを連れて指定の場所に”転移”した。


そこは火山のふもとで、大地の荒れたところだった。




『肝心の会談相手は…まだ来てないのか。』




呼びつけておいて遅刻とは、いいご身分ではないか。


俺は会談前から殺気立った。




「ダグラス様、暑くはないですか?」




「俺は大丈夫だ。ありがとう。グレイは?」




「私めも大丈夫でございます。」




「そうか。グレイ、何があっても手を出すなよ?お前は前科持ちだからな…」




「…承知いたしました。」




そんな会話をしていると、またドシドシと地面が揺れてきた。


昨日と同じ巨人だろうか。




『…配下はあいつらしかいないのか?』




しかし、そうではなかった。


死の魔力をかすかに放ちながら、通常種より一回り大きい巨人が前から歩いてきたのだ。




『巨人が魔王候補者だったのか…なんか俺の魔王のイメージと合わないな…』




魔王と言えば、角と羽以外限りなく人に似ている魔族を連想する。


…俺だけではないと思うが。




「お前が魔王候補者か?」




「ああ。」




「そうかそうか…」




巨人の魔王候補者は俺をじっくりと見て、何やら舐めた表情をしている。




「…それで、話ってなんだ?」




「オレの軍門に下れ。そうすれば脆弱なお前も、取るに足らないお前の配下どもも酷使してやるよ!!価値がないお前らにようやく存在価値が生まれるんだ!!!嬉しいだろ??」




…本当にクズだ。


何も知らないくせに、なぜそのような身勝手なことを言っているのだろうか。




「…断る。」




「あ?聞こえなかったなぁ!!もういっぺん言ってみろよ?」




「断ると言ったんだ。」




「はっ!羽虫の分際で生意気な!!…まあいい。お前はどうせ絶望するんだからな!!」




「…何をするつもりだ?」




「お前の領地に配下たちを進軍させた!!奪い、犯し、壊せという命令でな!!!」




全く持って予想通りで退屈だ。


この魔王候補者も”鑑定”結果からグレイと同等程度の実力だし、本当につまらない。




「やれるものならやってみろ。用件はそれだけか?」




「はっ!強がりやがって!!死ね!!!!」

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