第60話 『欠員のベイケンシー』

「吏世…やはり、此処か」


個室に入って来たのは、獅子吼濫界だった。

更に後から、角麿も入って来る。


「我が妹よ、早々に荷物を纏めるが良いわ」


そう言いながら、ベッドの上に座る角麿。

角袰は、自らの姉を睨みながら言う。


「……なに?」


「収集じゃ。十家の代表、及び、十六狩羅がな」


と、そう角麿が言う。

獅子吼吏世の方に歩き出す、獅子吼濫界が続けて言った。


「十六狩羅にて欠員が出た。二年ぶりの欠員。故に、それを埋める為の会議が行われる」


「……大福」


十六狩羅の欠員は、『牙狩り』古町大福と言う男であり、伏見清十郎の組んでいた少数部隊の一人にしてリーダーであった。


「そしてこの穴埋めを機に、十六狩羅の『とき狩り』も引退が決定されてのぅ……新しい十六狩羅が二名必要となったのじゃ」


「会議にて議題になる……そして、新しい十六狩羅の人員が推薦される」


「ちょ、ちょっと、それってもしかして……」


「『刻狩り』は自らの弟子を推薦していて、私は吏世を推薦する」


「麿は……ぬはは、推薦する人間は既に決めておるでの」


「十六狩羅と十家から推薦する人間を決めるんだ……そして、議題が出され、それをクリアすれば……新たな十六狩羅が生まれる」


その内容から察するに。

新しい十六狩羅を作る為の話が始まるらしい。

そして、その話は、十六狩羅と十家が推薦した者から生まれるとの事。


「……十六狩羅に選ぶのは、誰でも良いの?」


獅子吼吏世が聞く。

そして、岸辺玖の方を見た。


「少なくとも、それ相応の功績を挙げた者に限る……吏世。よく考えて、推薦する者を選んで欲しい」


獅子吼濫界がそう告げて時計を確認した。


「もう時間じゃのぅ……そうれ、そろそろ行くとするかの。ほれ、袰。さっさとするのじゃ」


そう急かす角麿に、角麿は渋々と立ち上がって、岸辺玖に向いて軽く手を振った。


「……またね、きゅうくん」


「あぁ」


岸辺玖は手を軽く振ってベッドに座る。

そして、獅子吼濫界も獅子吼吏世を連れて行こうとする。


「さあ、会議の場へ行くぞ……御当主様」


「……えぇ」


頷いて、獅子吼吏世は獅子吼濫界と共に向かおうとする。

そして、岸辺玖の方を振り向いて。


「……玖、あんたは」


其処までいい掛けて、獅子吼吏世は首を左右に振った。


「……なんでもないわ、でも……玖、あなたは、私に言いたい事はあるかしら?」


そう問うた。

岸辺玖はさして悩む素振りも見せずに。


「別に」


とだけ言った。

これが、地位や力を望む岸辺玖ならば、彼女に言う事があったのだろう。

だが、それを言わなかった以上、彼女がそれ以上、岸辺玖に告げる事は無く。


「……じゃあ、玖」


そう言って獅子吼吏世は出ていく。

その後ろを姿を見詰めていた岸辺玖は溜息を吐いた。


「……行ってしまったな」


残されたのは、伏見清十郎であり、個室の中、二人だけになってしまった。


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