第59話 『同期のシンクロナイゼーション』
彼の名前は伏見清十郎。
バビロン討伐戦に携わり、一度は重傷の身を負ったものの、角麿の改造手術によって生死の境から生還した後、その後の角栄郷防衛戦に参加した。
そして、現在、彼はバビロンが生んだ猿の声によって夢を見せられており、その夢の内容は、岸辺玖が七久保慶や三柴千徳及び十六狩羅『牙狩り』と共に狩人になった同期として認識している。
少数部隊にもう一人、岸辺玖が参加して共に困難を乗り越えた仲間であると、伏間清十郎はその様な夢を見せられて、それが現実であると思っている。
「玖、ごめん、ごめんなぁ、俺が居たのに、大福も居たのに、お前を残して死んでしまった……俺だけが生き残ってしまった……ごめんな、ごめんなぁ……」
涙を流して岸辺玖に抱き着く伏間清十郎。
獅子吼吏世はそんな二人の抱擁を見て、男である筈なのに嫉妬心を浮かべていた。
「(なによ、あの男ッ私だって現実で抱き締めた事なんて無いのにッ!)」
酷くご立腹の様子だったが、獅子吼吏世は声を掛ける真似はしなかった。
何故ならばこの後の展開なんて目に見えている。
きっと、岸辺玖が伏間清十郎の抱擁を鬱陶しく思って引き剥がし、そして侮蔑の言葉を吐き付くのだと、脳内シミュレーションではそう出ていた。
実際、その通りになる可能性はある。尤も、岸辺玖が記憶喪失でなければの話であるが。
「そうか……辛かったな、お前……お前、名前なんだっけ?」
「伏見清十郎だ……玖……」
「ちょっとおかしいでしょッ!」
獅子吼吏世はそう叫んで二人の間に割って入る。
通常ならば、岸辺玖が同情する様な言葉を掛ける筈が無い。
どんな状況であろうとも、岸辺玖は他人を励ます様な真似は絶対にしない。
「なんだよ……あぁ、茶髪の」
「獅子吼よ獅子吼ッ、獅子吼吏世ッ!私の名前、覚えなさいっ!!」
声を荒げて獅子吼吏世がそう言った。
岸辺玖は頷きながら伏見清十郎の後頭部を優しく撫でながら慰める。
「そうか、あの時は助かった。ありがとうな」
「え……」
岸辺玖からの感謝の言葉。
今まで一緒になってきて、どれ程感謝の言葉を呟かれただろうか。
獅子吼吏世は、岸辺玖の言葉を受け止めて頬を赤く染めながら嬉しそうな表情を浮かべる。
「そ、そんなの当たり前でしょ?だって私たち、バディですものッ!」
自信満々にそう言って、獅子吼吏世は疑問符を浮かべた。
何か台詞が間違っている。
そして、本来彼女が言うべき台詞は、バディではなく、婚約者であると。
「ちょ、ちょっと今の無し、間違えたわ、私たちは……」
そう告げようとして、部屋の隅でじっとしていた角袰が動き出す。
伏見清十郎の襟首を掴んで無理矢理引き剥がすと、岸辺玖の眠るベッドの上に横になる。
「……もう、良い?きゅうくんは、これから……私と一緒」
と、そう言ってベッドの上でごろごろする角袰。
「おいおい、また後でって言っただろうが、今、人が来てんだから」
「……待った。すごく待った。五分も待った。もうそれ以上は待てない。此処から先は、私ときゅうくんだけの時間」
「はあ!?」
角袰の言葉に獅子吼吏世がキレた。
この十六狩羅の狩人は一体何を言っているというのだろうか。
岸辺玖と二人きりの時間?そんな事、例え人や神が許しても、獅子吼吏世が許さぬと言った剣幕具合だった。
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